沢木耕太郎「鉄塔を登る男」/日

◆読書案内◆
 明治書院(高一)ほか/沢木耕太郎『彼らの流儀』新潮文庫、1996

―――東京タワーのてっぺんのあの赤い灯は、もし切れたら誰が取り替えるのだろう?

◇さわこ様リクエスト◇


 

―――東京タワーには、
150メートルのところに大展望台、
250メートルのところに特別展望台があって、
そこまではエレベーターで登れることになっています。
しかし、そこから先は自分の手と足で登っていくしかありません。
しばらくは階段がついていますが、
やがてすぐに剥き出しの垂直のハシゴを登っていかなくてはならなくなります。
そして、NHKのアンテナがある333メートルから上は、そのハシゴすらなくなってしまうんです。
航空障害灯のある333メートルのところまで行くには、三角定規のような形に折り曲げられたパイプ状のアンテナをよじ登っていくことになります。
もちろん、命綱などつけません。そんなものをつけたら邪魔で登れないからです。
といっても、私たちはトビ職人でもなければ、
特別な訓練を施された専門の要員でもありません。
放送用のアンテナのメンテナンスを担当している
古河電工の普通の社員にすぎないんです。
実際、私にしたところで、鉄塔に登るつもりでこの会社に入ったわけではありません。
配属されたところがたまたまアンテナ部門だった
というにすぎないんです―――


 

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