それは深夜0時過ぎ、唐突に始まった。
「よぼせよー」
「深夜にすみません、韓国さん。日本です」
「こんな時間に電話してきたら凶報かと心配してしまうんだぜしゃざ」
「ご心配痛み入ります。でも、今日は別でしょう。あけましておめでとうございます」
「おめでとうなんだぜ!……でも去年まではハガキだったんだぜ。何かあったか?」
「賀状もお送りしていますけど。先ほど、オーストラリアさんからご用ついでに賀詞を頂き、私もどなたかに…と思ったところで、では韓国さんに、と」
「そこで俺を思いついたんならお前のおっ」
「それでですね。たこ紹介ってご存じです?」
「タコイカウィルスなら知ってるんだぜ」
「……あれも、本当にまあ、我が国民らしい愉快犯といえばいえますが…それはさておき。自己紹介ならぬ他己紹介です。よく学校の、新入生ばかりのHRなんかでやるんですけどね、自分を紹介するのではなくて、隣の人を紹介するというものです。もちろん、性格などについては自分のことを話すのですが、そのときに「Aさんの隣のBです。私は…」という紹介をする。その隣の人は、「Aさんの隣のBさんの隣のCです。私は…」とやるんです」
「……で?」
「『こんばんは、韓国さん。先ほどオーストラリアさんに「A Happy New Year」と言っていただいた日本です。あけましておめでとうございます。』」
「は、はーん……」
「宜しくお願いしますね」
「日付変更線から西へ西へ進めていくんだぜ?」
「ええ」
「………それは、もしかしなくても、俺たちが一番楽なんだぜ?というか、アメリカさんが死ぬほど大変なんだぜ?」
「たまにはそういうこともあっていいと思いませんか?」
「お前、今にやりと笑ってるんだぜ…」
「おや、気配に漏れてしまいましたか。冗談ですよ、アメリカさんにはこちらから根回ししておきます」
「ぜ、絶対なんだぜ…!」
「兄貴−!オーストラリアに「A Happy New Year」って言われた日本に「あけましておめでとうございます」って言われた韓国なんだぜ!セヘ ボン マニ パドゥセヨ!!」
「お前も旧正月の方がメインじゃねーあるか?」
「細かいこと気にしてたら誤射なんだぜ!」
中略。
「おいギリシャ。最後まで聞けよ」
「…うるさい…。新年早々なんでお前の声なんか聞かなきゃいけない……」
「まあ、最後まで聞けって。日本が泣くぜ?」
「日本……泣く……のは、みたくない……」
中略。
「やあ、新年おめでとう、ポーランド。面白いミッションが回ってきたんだけどね……そうだよね、俺の役回りだよね……最初から自信がないんだけど……」
「なんなーん?新年早々辛気くさいしー」
中略。
「吾輩の言うことを一字一句誤りなく復唱するのである!忘れたり間違えたりしたら即刻撃つのである!」
「ヴェー…」(ダショーン)
中略。
「やあ坊ちゃん、一時間遅れの新年はどうだい」
「うるせえ。お前経度的には俺と変わんねえくせに…!」
「まあまあ。お前さんの『本初子午線』にあわせてやってんだから文句言うなよ」
「長くあわせなかったのはお前じゃねえかよ!」
「ま、ま。それはおいといて。ちょっと頭を使うミッションが日本から来てるんだが、お前もう酔っぱらってる?」
中略。
「ええと……待ってくださいね、覚えられなくなってきました。オーストラリアさんの隣の日本さんの隣の韓国君の隣の中国さんの隣の」
「誰?」
「カナダだよ……って違うよ!意地悪しちゃだめだよ!」
そして。
(そういうのは表にしたら合理的なんだぞ!)
(それじゃ意味ないですよ。ヒーローらしく、息継ぎなしで一息につなげて言ってください)
(長いよ…)
(それがいいんですよ)
(覚えられないよ…)
(こんな時だけ頭悪いフリしないでください。一応、奥の手をお伝えしますから)
「全くもう、日本は…こんな時だけ強引なんだからな!」
(いいじゃないですか、みんなを代表するのはやはり貴方ですよ)
ぴんぽーん。
「やあ、世界のヒーロー、アメリカだぞ!これから日本の伝統芸をやるんだが、絶対途中でわけが分からなくなるから、その前に奥の手を使っておくんだぞ!」
(英語でいいじゃないか、立派に世界共通語なんだぞ!)
(こういうのは、そうじゃないからこそいいんですよ)
「Mr.Himaruya,『felicxan novan jaron』!」
ひまさんへ、おめでとう、ありがとう
みなさんへ、おめでとう、ありがとう |