◆読書案内◆
東京書籍(小三)/新美南吉『新美南吉童話集(ハルキ文庫)ほか/青空文庫
◆引用◆
「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛いい人間の子供の手にしてしまいました。坊やの狐はその手をひろげたり握ったり、つねって見たり、かいで見たりしました。
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、まず表にまるいシャッポの看板のかかっている家をさがすんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸をたたいて、今晩はって言うんだよ。そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、その戸のすきまから、こっちの手、ほらこの人間の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃだめよ」と母さん狐は言いきかせました。
「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。
「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、つかまえておりの中へ入れちゃうんだよ、人間ってほんとにこわいものなんだよ」
※後書き反転