ヘタリアde秋ご飯・肉まん

アル菊

アルフレッド×菊(薄く片思い)

銀行のついでに郵便局で切手を買って、ドラッグストアの店先で新製品をいくつか手にとって。そんな、火急でも必須でも無いお出かけから戻り、最寄りのコンビニでじゃんぷと何かおやつ、と思って足を向けたところで「あ」と声が漏れた。ガラスの向こうでは「あー!」と言ったのだろう、二つの口が大きく開いている。
一瞬回れ右をしたくなったが、そういう訳にもいくまい。軽やかなメロディに迎えられ、店内に入る。
「珍しい組み合わせですね」
「組み合わさってなどいねーある」
「偶然なんだぞ!」
うちにほど近いこの店でこの二人が並んで同じ雑誌の立ち読みをしていて、それは偶然と呼べることなのかどうか。
「折角来たのに、留守だったから、時間つぶして待ってたんだぞ」
「そうあるよ!」
目的も同じなら、ましていわんや。
「それは、失礼しました。あの……アポイントという概念」
「なんだいそれ?新しいゲームかい?」
「早く家に入れるあるー。ずっと立ってて足が疲れたあるー」
「手も疲れたんだぞ!」
「それは実にすみません」
勢いに押され謝ってしまう。
「あの……私、肉まん買いますけど」
宜しかったら、という言葉を言う前に、びっと二つの指がケースの最上段を指した。買って貰えると信じているその目に、菊は小さくため息をつきながら財布を取り出した。

何に寄らず、価格帯別商品というのが今の主流で、どこのコンビニでも肉まん・あんまんは大抵二種類以上ある。ここのコンビニは更に「特選」の名を冠した、サイズも一回り大きなものが一等目立つ位置に鎮座している。当然だが、お値段も張る。
「仲良しですよねー」
皮肉のつもりでもそっと言うと、卓袱台の向こうでアルフレッドが首を傾げた。
「誰がだい?」
「お二人がですよ」

客間に入るなり二人して「オーマイゴッド」のポーズをした。こたつを期待していたらしい。確かにいきなりの冷え込みで、だからこその肉まんだけれども、こたつには早い。そしたら、干して部屋の隅に畳んでおいた毛布を王が見つけ、アイコンタクトを承けてアルフレッドが天板を持ち上げた。驚くべき連係プレーで「気分だけこたつ」を作り上げ、二人はそれぞれ辺を陣取って不動の構えだ。
「冗談はやめてくれよ」
「仲良くなんてねーある、文句なら山ほどあるね」
あ、今月頭以来のあれこれなら私にも、と思いつつ菊は黙ってお茶を入れる。湯飲みを受け取り、二人ははぐっと特選肉まんにかぶりつく。
「だって、同じの選んだじゃないですか」
もっとも、同じ物が好みだということではないのかもしれない。奢って貰えるなら一番高いもの、という行動原理を共有しているだけなのかも。
「いや-」
「うーん」
この二人にしては珍しく、一拍の躊躇があった。けれどもそれも一瞬のことで、ざっぱりと斬る。
「安いの、美味くない」
一人分の「あるね」がついただけの完璧な異口同音に菊は思わずのけぞる。
「それは、高価格帯商品に比べれば、そうでしょう」
具材の量も質も違う。いわゆる「無印」肉まんは定番商品だけに開発費も抑えられるだろう。判官贔屓のような気持ちで買ったそれを一口食べる。ふかっと口の中に暖かさが入ってくる。そぼろ餡もよく味がしみている。いいところを探し出すように食べる菊に、二人は可哀想な子を見るような目を投げてくる。このやろう。
「いや、多分、違うんだぞ」
抑えるような手振りをするアルフレッドに、王も「あー」と頷いている。
「値段を抑えたから原材料費を削ろうってのは分かる。それで何は最低押さえるかって時に、この国は具に走るよね」
「え?」
「パン屋でもさ、すごく総菜パンが多い。フィリングは確かに選り取り見取りだし美味しいと思うけど、その分パン生地は、何か普通なんだよ。ヘタすると、まずい」
「肉まんは、お前が皮扱いする部分が我にとっては本体あるからな。歯ごたえも食味も物足りないあるね」
「な……!」
漫画でならベタフラが走るところだ、と菊は思った。
他でも無い味覚についてアルフレッドさんにだめ出しをされるなんて。しかも王さんも同意している!王さんが!
「菊は、やっぱり小麦文化圏じゃないんだなーって思う」
がくり。垂れた頭を天板が迎える。
「……おこめ最強ですから……」
とはいえ米食単一ではなくむしろ雑穀文化と呼ぶべきなんですが、だから小麦も食べるのですけれどもと指の先に力を込める。
その様子に珍しく空気を読んだのか、アルフレッドが慌てた声を出す。
「いや、俺は、具の方は美味しいなーと思いながら食べるけどね!そしてお金かけたのは皮も弾力あって美味しいよ!いくつだって食べられちゃう」
「本場(うち)の饅頭には負けるあるけどな」
この……と睨むアルフレッドを知らぬ顔で、王は手を伸ばした。天を向く菊の頬を指で軽く押す。
「このくらいの弾力は昔っから外さねーある」
「……」
「お前も、爺だ爺だと言う割にいつまでもぷにぷにあるなー」
「ちょ…」
下からは嫌そうな菊の手が、横からはむっとしたようなアルフレッドの手が、王をとめた。
「いつまでも子供扱い、やめてください」
「そうなんだぞ!自分はすごく前から菊を知ってるってアピるのずるいんだぞ!」
王はによっと笑ってアルフレッドに向き直る。
「ほんとにお前はお子様あるな。好きだからって、いくつだって食べ、ちゃってると――」
ぷに。アルフレッドの頬を軽くつまんで、王は悪い顔で囁いた。
「好きなやつを組み敷いた時に、こんなぷにぷにがお腹で垂れるあるよ」
「な――っ!」
ちらっと目を菊に走らせて顔を真っ赤にしたアルフレッドに王は呵々大笑し、訳の分からない菊は腹立ち紛れに王の手に残っていた「特選」印にかぶりついた。