五月

フラ菊

■フランシス

 闇雲に走った先の空に、信号弾が打ち上げられた。思わず足をとめ、それからそちらに向かってフランシスは駆けた。まさか? ……いや、そう思う理由はない。三日にも六日にも警官隊は実力を行使した。同じ事が起こったのだ。
 やがて夜空は弾道を示す煙と、発火と、爆発音に満たされた。
 そこに向かっていく必要はない、むしろすぐにでも踵を返すべきだ。分かっていながら、フランシスは走った。催涙弾、熱風弾、ガス弾。様々な化学薬品の臭気が、風に乗ってフランシスの肌を刺す。

 中にいる学生の主張を理解はしながらも、どこかでシンパシーを感じられなかった。どこまでも「彼ら」としか思えなかった。
 自由と平等を言いながらその享受者から女性を除外した革命当時の「彼ら」、ユダヤ人を除外した大戦下の「彼ら」、有色人種を除外する「彼ら」、そして、「俺たち」を除外している「彼ら」。

 ……この国の歴史のようにじぐざぐに、それでも、それでも前へ進もうとする彼ら、「自分たち」を広げようとする彼らを、

――炎が襲う。

 これが、この国の形か。

 言葉にならない音を肺腑からはき出しながら、フランシスは赤い夜へ駆けこんた。