日本が憲法研究のため来独していた頃の、更に十年ほど前。まだ見た目もはっきりと子供だった頃だ。そして、プロイセンがフランスを派手に打ち負かし、鉄血政策の下作り上げたドイツ帝国の体制固めに奔走していた時期でもあった。
幼い見た目とはいえ国である以上相応の知性はあるから、状況の把握も因果関係の理解もできる。どれだけ厳しくても、プロイセンがドイツに注ぐ愛情は、プロイセンがドイツのためにかけている多大な労力からして、疑いの余地が無かった。学問も礼儀作法も運動も、ドイツのために、ドイツに期待して、課されていること。それはよく分かる。
「はあ……」
それでも、やはり子供型の身体にはできないことがあった。同じ姿勢を長時間保つことさえ細い足には難しい。その頃ドイツで運動と言えば体操で、ボールと言えば体操競技用の重いそれだった。鍛錬のために、豚の腸を膨らませたボールを頭上高く持ち上げて、姿勢を保つよう命じられた。体が揺れたり落としたりすれば鞭で叩かれる。戦場を駆け回るプロイセンから全権を託された教育係は、その役目が重すぎたのか、度々過剰に厳しい罰を与えた。
もともとヨーロッパは子供を「未熟な大人」とみて、上流階級ほど厳しく大人並みの礼儀作法を身につけさせようとする。早く大人になりたいドイツに、不満を抱く余地はない。だから、その頃ほんの少し辛かったのだということを、ドイツ自身がきちんと理解できないでいた。
教育係の前でため息をつけば叱られる。プロイセンの前でなら心配される。逃しようのない息は、小さな体に溜まって、少しずつ表情を失わせていった。言われたことは従順に、完璧にこなすまでやりとげる。その裏で、幼いドイツは思いっきり遠駆けをしたいような大声で下々の流行歌を歌ってやりたいような気持ちを腹の中に抱えていた。
宮殿の裏手に小さな林と草原があった。余り整備されていないから人も足をあまり踏み入れない、何をするにも人の眼を気にする必要の無い、そんな場所だった。危ないと眉をひそめられる木登りをして、こちらは確実に叱られる、枝の上に仁王立ちになって大きく深呼吸をする。いつも若い若い、幼い幼いと厳しい顔をする大人達を追い越した気になって少しだけ満足する。そのささやかな息抜きのつもりでするすると手近な木に登ったドイツは、真横に、つまり隣の木に、あるはずのない人の顔を見てぎょっとした。
「…………!!」
思わず叫ぶところだったが、なんとか堪える。木登りがばれるのは喜ばしいことではない。隣の木の怪しい男も何かばれるとまずいのか、必死でしーっと指を立てている。不審人物だ。こんな宮殿のすぐ側に。手に持っているのは双眼鏡だ。スパイなんじゃないか。やっぱり叫ぼうと思ったところで、男がサングラスをとった。
「あ」
イギリスだった。正確に言うと、プロイセンから、三割増しにあくどさの増した似顔絵をもとにこの極悪非道の元ヤン似而非紳士には金輪際近づくなと厳命されている、イギリスだった。向こうはとっくに分かっていたようだ。失敗した、という顔で頭を掻いている。
「お、おれのくにになんのようだ」
「お前の国?」
鼻で笑いそうな雰囲気で返され、ドイツは言葉に詰まる。
応対する誰もが、自分の後ろにいる兄を見ている。難しい話になってくるとドイツの頭越しに直接プロイセンに話しかける。それは仕方ないと分かっているつもりだったのに、不意打ちだったせいでこらえられず眼が潤む。悔しいから涙を落とすまいと、ドイツは一層奥歯に力を入れた。
「あー」
面倒そうな声を出して、イギリスはほいと何かを放ってきた。慌てて受け取ると、きちんとアイロンのかけられた刺繍入りのハンカチだった。
「……いぎりす」
「あぁ?」
「かたい」
「あ?」
「このハンカチごわごわする」
「糊のせいだろ。我慢しろよ」
刺繍があまりにもこみ入っていて汚すのは憚られるし、何よりかたいから、鼻をかむのはやめて、ただとんとんと目の上を押さえるだけにした。「ありがとう」と手を伸ばして返すと、「もっとわしゃわしゃ拭けよ」と不満そうな声を出す。
「お前、いつもそんな風に泣くのか」
「な、ないてなどいない!」
「泣いてんだろーがばーか」
ガキのくせに、と呟いて、イギリスはすとんと木を降りた。そして、ドイツを見上げて、取り出した何かを見せる。
「これなんだ」
「……ボールだろう」
しかし体操用のものにしては小さい。それをぽんと投げ上げて、腿で受け止め、また軽く弾ませる。何度かそれを続けた後、落ちてきたボールを足首で大きく蹴り上げた。ぽんと目の前にやってきたボールを、ドイツは手で受け止めた。
「サッカーだ。聞いたことねぇか?」
「ない」
「今のお前みたいに手で受け止めるのは、しないってルールでやってる。全部足で蹴って、ボールを運んで、相手の陣地に蹴り込んだ方が勝ち」
「足で……」
それは野蛮だな、とちらりと思った。きっとプロイセンにそう言われるだろう、止められるだろうとも思った。それなのに「やる」と言ったのは、無自覚の反抗期だったのかもしれない。
ボールを投げ返し、木を降りた。その間に、イギリスは木と木の間にロープを張り渡していた。
「この木とロープと木の間がゴールだ。ここに蹴って入れる」
「こう」と言いながら、ゆっくり動作をしてみせ、更に蹴って見せた。ボールは綺麗な放物線を描いてゴールの真ん中に飛んでいった。
「分かった」
ただ入れればいいだけなら簡単じゃないか?そう思いながら見たままに足を振る。かろうじて足はボールを蹴り出したものの、ごろごろと転がっていき、斜めにそれた。
「む」
「初めてにしちゃ上出来だろ」
言いながらボールを拾ってきたイギリスは、また同じ位置にボールをセットした。
「ごちゃごちゃ考えねぇで、思いっきり蹴れよ」
「……」
「蹴ったやつは俺が戻してやるから」
そう言って、ゴールの後方にスタンバイする。
気合いを入れすぎたせいか空振りをして、危うく転びそうになってしまった。笑われるかと思いきや、イギリスは「それでいい」などと声を投げてくる。よし、と拳を固める。体操のそれのような綺麗な型がまだ分からない。けれども、イギリスはいいと言う。思いっきり蹴ればそれでいいと。分野によらず、そんなことを言われたのは初めてだった。
「ええいっ」
何も考えずに、ただ足を大きく蹴り上げた。ばんっと小気味いい音をたてて、ボールは大きく飛んだ。ゴール枠に入らないどころか大きく向こうにまで飛んでいってしまった。先のルールから言えばアウトの筈なのに、イギリスは「いい、いい」と笑った。「飛びすぎた分、下がれ」。
言われた通り、放物線の軌道から推測して好適地にまで下がり、もう一度思いっきり蹴ると、さっきのイギリスのお手本のようにまっすぐゴールに吸いこまれていった。
「やった!」
はしゃいだ声が口をついて出た。イギリスも向こうで親指を立ててみせる。
「おい、取引しようぜ。このボールやるから、俺が来たことは黙ってろ。特に、兄貴には絶対言うな」
ぐ、と詰まった。ボールは欲しかった。蹴って飛ばすのも気持ちよかったし、最初にイギリスがしてみせたようなぽんぽんと腿で蹴り上げるのも面白そうだ。ボールさえあればここで練習できる。けれども、スパイを見逃すのは利敵行為なのではないだろうか。
考えを見抜いたようにイギリスは苦笑した。
「忍び込んだわけじゃねえし、何も盗聴してねえよ。普通に外交チャンネルで来訪して、ちょっと休憩してただけだ。ま、何か諜報できるかなという気持ちもなかったわけじゃないが、ここは守りが堅い」
言いくるめられている気はする。何せイギリスは仮想敵国の一つだ。栄光ある孤立とやらでビスマルクも同盟締結に持って行けなかったこともあって、反英気分は広がっている。
「だいたい、通常来訪っていうが、お前との面会など予定になかったぞ」
「そりゃまあ……」
そこで口を濁され、はっとする。面会はプロイセンとだったのだ。多分、タフな交渉だったのだろう。だから、丁々発止の遣り取りのできない子供にはお呼びも掛からなかった。
「……」
俯くドイツを前にしばらく黙っていたイギリスは、やがてぽつんと呟いた。
「守って貰ってるってのが、そんなに嫌なもんなのか」
慌ててかぶりを振る。プロイセンに対してそんな気持ちを持ったことなど無い。持つことがありうるとさえ思われたくない。下を向いたまま首を振っていると、イギリスがしゃがんだ。流石にそうされれば見下ろす姿勢になる。イギリスは膝に肘をつき顎を載せた。
「サッカーで一番大切なのは、フェアプレーだ。相手をどついたり、蹴ったり、罵ったりした奴は退場させられる。そしてチームプレー。仲間を裏切らない。紳士的なスポーツだろ?」
「あ、ああ」
「だから、お前がサッカー仲間になるなら、俺も約束してやる。この場所とボールの前で、お前を裏切るようなことはしねえ。……ここ以外については宣誓しねぇぞ、生き馬の目を抜く時代なんだからな」
その誓いに含まれた言葉通り、イギリスは時々やってきては練習をつけてくれた。といっても、手取り足取り教えてくれるような柄ではない。大抵は木の根元に座ってドイツの練習を眺め、気が向けば模範演技をしてくれる程度のことだ。けれども、かっちりとフォームを習ってその通りするのが運動だと思い込んでいたドイツには、その手法は新鮮で魅力的だった。ルールに則ってさえいれば何をやってもいい。危険が感じられれば口出しするが、基本的には放置。指導という指導はなく、ただ「どうやればできるか考えろ」と言って、やって見せて、放置。代わりに、鞭も無い。ドイツにとってはその解放感といったらなかった。
ドリブルもヘディングもできるようになってくると、イギリスと一対一でボールを奪い合ってゴールを競うミニゲームもやり始めた。これは面白い。勿論イギリスが圧倒的に優勢なのだが、ほんの時々、出し抜ける瞬間がある。イギリスは大人げなく悔しがるから、倍嬉しい。
夢中だった。
だから、すぐにばれた。秘密のために課題その他は前以上に熱心に取り組み、林への往復も見られないよう重々気を付けていたのだが、プロイセンが、「なんか、俺の中が変だ」と詰問したのだ。国民が重なるのだから気分の伝染はプロイセンにはそれと分かる。仕方が無いとはいえ、まさかそんなばれ方をするとはと騙されたような気になる。
「イギリス病にかかってんじゃねーだろうな」
もともと、躾けモードの時のプロイセンは怖い。それがはっきりと怒っているものだから、ドイツは見下ろされる紅い眼を見返すこともできずに硬直した。
「いいか、何度も言ってんだろ。イギリスは野蛮で狡猾だ。あんな国のこた、何も知る必要はねえ。言葉も、なんだかいう玉遊びも」
「……」
「麻薬みたいなもんだ。甘い顔して入ってきて、気高いゲルマン精神を蝕んでしまう。お前を子供とみて、たぶらかそうとしてるんだ」
「い、イギリスはそんなことしない!」
思わず顔を上げた、直後、ドイツは失言に気づいた。
「……」
炎が見えるかと思うほどに、プロイセンの怒りは露わだった。
「逢ったのか」
思わずしゅっと息をのむ。
「逢っていたのか!」
「……」
「っざけんな!」
ダン!と壁を叩くと小さく罅が入り欠片が飛んだ。
「お前が……、お前に……っ」
髪をかき回し、憤慨をそらそうとしているらしいが、言葉の一つ一つ、動作の一つ一つに怒りが込められていて身が竦む。
「……一ヶ月外出禁止」
「ええっ!」
怯んでいたのに、思わず不満の声をあげてしまい、ぎろりと睨まれる。プロイセンは、しかし睨んだだけで、やがて目を閉じ、すうはあと深呼吸をした。
「その間に体からイギリス熱を追い出しとけ」
命令は徹底された。馬術訓練も剣術も停止。座学と、部屋の中での体操だけが日課を占めた。
プロイセンが続けたかった言葉も、それを呑み込んだ理由も分かる。プロイセンが毎日欧州を駆け回っているのも、矢面に立つのも、ドイツのためだ。ドイツがまだ幼いからだ。だからこそ身を削っているというのに、不良の遊びに熱中されてはプロイセンの立つ瀬が無い。けれども一方、プロイセンは、ドイツを「生み出した」責任を感じてもいる。だからドイツの「ため」にすることは、結局自分のためなのであり、それをドイツに負わせるべきではないと考えているのだ。それが理解できる知能はあるけれども、感情制御能力はやはり見た目相応に幼稚で、どうにも鎮めきれない。ボールが蹴りたくて、けれどもボールは無くて、右足を振り回していると、不良化したと教育係に叩かれてしまった。鬱屈がまた表情を失わせていった。
「なんか面白いことになってんじゃーん」
軽薄な声で楽しそうにやってきたのはフランスだった。
「寄るな変態」
「よるなへんたい」
プロイセンに言い聞かせられていた呪文をドイツも復唱する。ひどい、と泣き真似をしてみせて、フランスはさっさと客用椅子に座った。プロイセンはドイツとの間を遮るようにソファに掛ける。
「俺んとこでも流行ってるよ、サッカー。面白いじゃん」
意外なことに、プロイセンは反論せず黙った。
「ま、いかにもアングレース!な粗暴さはあるけどねー。もうちょっと美しくプレイしたいよな」
「そういう問題じゃねえ」
どうやら仲裁に来たらしいフランスに、プロイセンは腕を組んで、拒否の構えを示した。と、フランスは肘をついて掌に頬を乗せた。
「ちょっと、オトナの話をするよ。イギリスの植民地はアジアにもアフリカにも広い。そこに、サッカーはどんどん広まっている。多分すぐに国際組織ができて、交流試合をするようになる。お前、取り残されちゃうよ」
「……」
「なんで、教育レベルの高くない国にも広まってるかっていうと、ルールが単純でボールと地面さえあればできるからだ。対戦型だから熱中もする。見てる側も熱くなれる」
少し顎を引き、更に声を低める。
「お前も気づいてるだろ。近代国家ってのは、今まで上司の視界に入ってなかった層や異民族が、統治の客体じゃなく、俺らの体の構成要素になってくる。熱を逃がす方法ってのは絶対必要なんだ。熱を集める方法もだけどね」
「……それが玉蹴りだってのか」
「いくつか考えられるうちの、最有力候補だね」
ま、ね!とフランスは姿勢を戻した。
「そういうオトナの思惑は置いといてね。どうせ流行るよ、楽しいんだもん」
な!といきなり笑いかけられ、思わず頷く。頷いて、気づく。楽しいのだ。思いっきり駆け回って、ボールを高く飛ばすことが。楽しかったのだ。
俯いたままのドイツを、プロイセンはしばらく見下ろしていた。ややあって、低い声で言う。
「やっぱり俺は反対だ。それでもお前、やりたいのか」
ドイツは顔を上げた。怖い。罪悪感もある。ドイツは眦に力を入れて、ぎゅっと頷いた。
プロイセンは大きくため息をついた。
「しょーがねーよな。反抗ってのが、大人への階段だからな」
「そうそう。……俺に話もってきたのも、イギリスなりに悪かったなと思ってんじゃん?」
「ふん」
おとな二人だけで話が通じているようでドイツはきょろきょろしてしまう。と、フランスが近づいて、ぽんと頭を叩いた。
「大人はさ、ついうっかり、『ifの世界』ってのを探しちゃう時があんだよ。違うやり方してたらどうだったかなって」
プロイセンは、話にけりを付けるための無茶ぶりをした。フランスとドイツにミニゲームをやってみろというのだ。
体格差が大きかったのでドイツは苦戦を強いられたが、小回りをきかせて互角の勝負に持ち込んだ。勝ち負けの世界になると、プロイセンは熱くなる。ただ様子を見るだけのつもりだったはずなのに、最後には口角泡を飛ばす勢いで声援を送り、拳を振り回した。接戦の末負けた時にはドイツ以上に悔しがり、次は絶対勝てと肩を揺さぶった。次。その言葉をぎゅっと手の中に握りながら、ドイツは大きく頷いた。
一九〇八年のロンドンオリンピックから、サッカーは公式競技として採用された。一九三〇年代にはFIFAワールドカップが成立。フランスの予言通り、国際試合はナショナリズムの発露の場として大いに盛り上がった。
一九四三年、クリスマス。ドイツは東部戦線の中にいた。雪積もる中で支給品のチョコレートでも食べるかと取り出したところで、突然声が掛けられた。
「おいドイツ。何もしねーから顔出せ!」
焦って銃を向けると、イギリスがホールドアップの姿勢で肩をすくめていた。
「銃をおろせ!今日だけは戦うのやめないか。その……今日はクリスマスだろ」
「……」
その気持ちはよく分かる。そこまで敬虔な信者でなくても、この日には血を見たくない。いい、悪いではなく、したいかしたくないかで、殺し合いをしたくない。
「ま……なんだ、ここに一つサッカーボールがあるんだよな」
ふっとあの林が思い起こされた。梢からもれる日差し、縄を張って作ったゴール。大きく蹴り上げたボールの軌道、にやっと笑って親指をあげたイギリスの顔。
懐かしさに頷いた、その瞬間、がつんと蹴られたボールがドイツの顔を直撃していた。
「ざまーみろ!積年の恨みだ」
「……」
大声で笑うイギリスの顔に向けて、ボールを蹴り返す。直撃したボールにイギリスは「おっふ!」と呻いた。思いっきり蹴ったので相当痛かっただろう。お互い様だ。まだ顔が痛い。
「ロンドンオリンピックが中止になっちまうじゃねーか!」
イギリスが蹴り返してきて、そのままゲームになだれ込んだ。
身長はドイツの方が上だし、胸板も厚いから押し負けることが少ない。鍛えてあるから基礎体力もある。しかし、駆け引きはやっぱりイギリスの方が上手い。力で行こうとすると躱される。必死になって、雪の中、ボールを追いかけ回した。
小一時間もしただろうか、流石に息が上がって、二人して雪の中にへたり込んだ。イギリスは大の字になって愚痴っている。ドイツは空を見上げた。
ifの世界。もしもあの日こうだったら。そして、明日がもしもこうじゃないなら。
考えていたことが通じたように、イギリスが呟いた。
「来年のクリスマスは俺達どんな馬鹿なことやってんだろうな」
それは、今日の無茶苦茶なサッカーのことだろうか。それとも、戦争のことだろうか。
「イタリアの世話だな」
「あー」
そうだろうな、お前はな、という顔でイギリスは頷いた。
「……今の俺たちには想像がつかないくらい、馬鹿馬鹿しくて笑えることをやれてるといいな」
「……」
プロイセンに隠れてサッカーを習っていた頃は、こんな互角の勝負ができるなんて想像もできなかった。予測が立てられる未来もあるが、思いもつかないこともある。昨日の自分は幼かったと笑える未来の方がいい。
イギリスは、目をつむったまま呟いた。
「……でかくなったよなー」
「俺か?」
「お前も、……イタリアも日本も、最初に見たときと比べるとやっぱでかくなった。アメリカも……ああ、フランスは老けたな。あと中国は化け物レベルで変わんねえ」
思わず笑ってしまった。そうなのかもしれない。
「人間から見れば、俺たちだって化け物みたいに長生きなんだから、そんな日も来るよな、きっと……」