フランシス×本田菊(R18)
情人の訪れを待つ時間は夏の昼下がりに似ていると思う。じんわりと体が熱くなり、ただじっと座っていることもできず、少しでも爽やかに出迎えたいと打ち水をしたり顔を洗ったりもするけれど、皮膚のあちこちからむわっと気が蒸発し体を包むのが分かる。この年になってはしたない、と思うけれども、地球の四分の一周の距離をあけた人との久方ぶりの逢瀬に、全身がわなないてしまうのだ。
直接刃を交えたことは無くても敵対したことはある、その前もその後も老獪な国際政治の手腕を見せるフランスと、ひょんなことから「おつきあい」をすることになったのはミレニアムを越した頃。「かわいい」「好きだ」と繰り返されるので妙な負けん気を発揮して「私の方が憧れてます」と言い張っているうちに、「そういうこと」になってしまった。おかしい、騙されている気がする。何度となくその経緯を再検討したが、いつ、どう考えてもあの「かわいい」「好きだ」は不誠実で(同じ言葉を言われた国がいくつあるだろう!)、だから言い返すのは正当で―――実際、日本のフランスへの「憧れ」と言ったら並大抵のものではなかった。あれだけアメリカ文化を受け入れた戦後であっても、憧れの外国と言えばフランス、美しい言語と言えばフランス語だったのだ。だけど、二次元のあれこれと同じように「遠きにありて思う」対象だったフランスが、十センチの距離に顔を寄せて、それを更に縮めて…というシチュエーションは日本の想像を超えたところにあったので、今でも「何かが間違っている」という気持ちが拭えない。
あの人が、私などを?……何の冗談だろう。バブルの頃は、金に物を言わせてさえ、店員に接客もして貰えなかったというのに。
いっそ懐を狙われるならその方が分かりやすくて、いい。今でも料理や菓子、服飾において彼の地位は絶対的で、まるで喜捨行為のようにフランス資本へ貢ぐ国民は多い。どれだけ粗利があろうとも金を出しただけのことはあると思わせてくれるのだから、それらに金を出すのは惜しくない(金を返せと言いたくなるものを押しつけてくる隣人もいるのだから)。フランスさん相手ならタニマチだろうがなりますよ、でも。
恐ろしく恋愛に長けたフランスは、「まるで」尽くしてみせるのだ。プレゼントにエスコート、エスプリの効いた会話に細かな心配り。「まるで」愛されているかのようで、どうしたらいいのか、どう考えたらいいのか、分からなくなってしまう。
だから日本はいつも、ほとんど水垢離をするような心持ちで、約束の一時間前にはシャワーを浴びる。この暑苦しい煩悩を水に流してしまいたい。清楚にして端麗、そんなセルフイメージを保持したいのだ。
「ああもう…」
まだ午前中だというのに夕方の約束を思うとそれだけで火照る体を持てあまして、菓子でも作ろうと思い立った。多分手土産に何か買ってきてくれるだろうから、彼に出すデザートは要らない。日持ちのするものにしておけば、別に今日明日食べなくても構わないだろう。かり、と頭を掻いた日本の目に、残り少なになった金平糖の小瓶が目に入った。薄いパステルカラーのそれは、中身は砂糖そのものであるのに、どこか涼しげだ。
「……では、宝露糖でも作りましょうか」
敢えて古風な名で呼んで、戸棚から片栗粉を取り出した。
夏にやる作業じゃなかった、少なくとも高温多湿の日本の夏に。
そう反省し、作業場を唯一エアコンのある客間に移した。片栗粉をパッドに敷き詰め、小指の先できゅ、きゅ、と小穴をうがつ。台所に引き返し、手鍋に入れておいた水飴と砂糖を火に掛けて溶かす。溶けた糖液の粗熱を取り、ボールに入れたリキュールと静かに混ぜ合わせる。水差しにそっと移した糖液を先の片栗粉の凹みに注いで、その上から片栗粉を振りかける。パッドをそっと捧げ持つようにして台所へ戻り、オーブンに入れ、発酵機能を使って再結晶化を促してやる。糖化には放置時間も含めて6時間もかかる。その間に昼食をとり、家の掃除も済ませて、シャワーも浴びる。髪をタオルで抑えて、取り出したパッドに水滴が飛ばないように注意しながら、固まりつつある砂糖の塊を上下ひっくり返す。慎重にフォークを差し入れて壊さないように作業していたら思ったより時間がたっていたらしい。
ドアチャイムの音に、日本は弾かれたように顔をあげた。なんと、いつの間にこんな時間。
とりあえず、パッドをオーブンに戻し、頭のタオルをとる。一時的にまとうだけのつもりだった浴衣を着替える暇はなく、せめてと袷を直して玄関に出ると、「ごめんね、早かった?」とフランスが笑い顔で立っていた。
「いえ、すみません、こんな格好で」
「いや…」
いきなり、抱きすくめられる。
「まだ光がありますよ」
「だから?」
だから、と言われても困る。せめてこの人の色気に惑わされるのはお天道様が沈んでからにしたい。
「日本が石鹸の香りさせて、濡れた髪で、出迎えてくれたんだぜ?そりゃあ、嗅ぎたくもなるってもんでしょ」
そんなことを言うフランスの首筋からは体臭にあわさった香水が嫌み無く漂ってくる。フェロモンそのままのそれに、尾てい骨が反応してしまう。
す、と胸を両手で押して、日本は身を引きはがした。
「外はお暑かったでしょう、フランスさんも水を浴びられますか」
「汗臭い?」
「いえ、そういうわけでは。…ああ、客間は冷えていますよ」
案内されたフランスは小首を傾げた。
「いつもより、冷えてるね?」
客を迎える準備として数十分前にはスイッチを入れておくのが常だが、今日はその前から部屋を使っていたせいで設定温度より低くなっていたらしい。
「誰か来てたの?」
日本はその言葉に眉をひそめた。「まるで」嫉妬するかのような台詞。それさえも、この人の手管なのだ。
「いいえ?」
微笑みを返すとフランスは目を細めて顎を引いた。
「ふうん?」
戦略的な数秒の間を開けて、フランスは「これ、お土産」と小箱を差し出した。
「開けてもいいですか」
「もちろん」
中に入っていたのは目にも涼やかなカップだった
「ルコントのジュレ・ド・オランジュですか!」
喜びの声に、フランスの頬も緩む。
「王道でしょ」
「ええ、我が国の洋菓子史に名を刻む名店の、夏の逸品ですね」
「ありがとう。こっちはブランマンジェ・オ・マント。ミントがすっきりしてて美味しい」
「…って、店員のお姉さんが言ってました?」
「も、言ってた」
期待をしないようにするために女性の気配を見つけ出そうとしては、あっさり見つかるそれに気落ちする。なんで毎度毎度、精神エネルギーの浪費をしてしまうのだろうと自分に呆れる。
「それにしてもさー」
「なんでしょう」
とってきたスプーンと作り置きのアイスコーヒーを手渡した日本に「メルシ」と言って、フランスはによ、と笑った。
「日本、ジュレって言うようになったよね」
「…ゼリーじゃなく、ですか?」
「うん」
「…ゼリーとも言いますよ」
「知ってるけど。フロマージュも、もう通用するようになったでしょ」
「ええ、まあ。でもどちらにしても、一般語彙ではないというか、ちょっと特別感を出した言葉ではあるんですが…」
「ふふん」
スプーンを舐めて、フランスは片目を瞑った。
「それはそれで、嬉しい、かな」
反応に困ってしまう。
特に英語がどうと言われたわけではないけれども。……特に誰がどう、と言われたわけでもないのだけれども。
「そういえば…」
「なに?」
「ビスキュイという言葉は、ラテン語とフランス語の合成なのだそうですね」
「ああ、うん。bisucoctum(二度焼き)とcuit(焼かれた)だね。…ビスキュイ、は、まだ製菓業界でしか通用しない言葉かな」
「そうですね、やはりスポンジか、ビスケットですね。近代以前ならビスカウトでしたが」
「……ああ、そっか。ポルトガル語なのか」
そっか、そこまで戻ればまたヨーロッパ連中とつながりがあるんだね。スペイン、オランダ、イギリス………指を折って、フランスは、ちえ、という顔をしてみせた。イベリア両大国や海洋新興国のような新世界への動機も持たなかったくせに、ちえ、はないだろうと内心思う。
「でも、日本人にとってスポンジケーキは柔らかいもの、ビスケットは焼き菓子の中でも堅いものなので、ビスキュイという言葉は一般人には違和感があるんですよ」
ついでに雑話を思い出して日本は笑みを漏らした。
「そういえば、例の無敵艦隊撃破の勝因は、それこそ文字通りの堅焼きパンたるビスケットだったと聞いたことがあります。両国ともに大船団、その糧食として大量のビスケットをドレーク将軍が用意していたために、兵士が食糧の不安を抱くことなく戦えたのだとか」
イギリスはそれを「備えあれば憂いなし」の教訓に導かせていたのだが、日本は必死で笑いをこらえた。要するに、粗食に耐えられる方々だったのですね…。
思わずその時の分まで頬が緩んだが、フランスの表情に気づいて目を瞬かせた。…なんですか、その、「まるで」、誰かの気配に気分を害したかのようなお顔は。
「ところでさ」
「なんでしょう」
「この粉、なに?」
「粉?」
見れば、片栗粉がわずかに落ちている。
「ああ…いえ、なんでもないですよ」
あの芸術品のようなジュレを食べた後に、しかもフランスに向かって、ままごとのような菓子作りをしていたなどと言うのが憚られて、日本は曖昧に誤魔化そうとした。
「…なーに、お兄さんに言えないコト?」
「いえ、そんな」
「甘い香りがするよね。ジュレのではなくて。何か作ってた?」
「そんな、」
そんな、顔をされるような場面ではない。…そんな関係ではない、私達は。そして不快にさせてまで隠したいことでもない。言ってしまえばいいのだ、気持ちをそらすために砂糖菓子を作っていましたと。そうでもしなくては下半身が疼いて、疼いて――…言えるわけがない。
「…」
フランスは黙ったまま立ち上がり、台所へ向かった。慌てて後を追う。さっと目を走らせて、フランスは過たずオーブンの扉を開けた。
「……ボンボン・ア・ラ・リキュール?」
こんな我流の作り方なのに一目で分かるとは。日本は観念して頷いた。
「……ええ。型どりも指でしたというお粗末さで、形も不揃いですしお恥ずかしい出来です、」
から、ちょっと、言うのが憚られまして。
そう続けようとしたが、それをダイニングテーブルに運ぶフランスの硬い表情に言葉を飲みこんだ。
「…で、これを誰のために作ってたの?」
「え。いえ…自分の?」
菓子作り自体が自分のための行為であったという意味で、そこに嘘は無い。しかしフランスの表情は戻らなかった。長い指を差し込んで、薄紅色の塊を一つ掴み出す。ひどく脆いできたてのそれは、わずかな力に耐えかねて弾け、フランスの指を濡らした。たらり、と伝わるそれを、彼は舌ですくい取る。
「甘いね」
「あ、はあ。ラズベ…」
「フランボワーズ」
遮られ、日本は言い直す。
「…の、リキュールです」。
「味は、いいんじゃない?」
「そうですか」
どんな場面であれ、本家たるフランスに認められれば嬉しい。顔の緊張をわずかにといた日本の顎をてらりと濡れて光る指が捕らえた。
「で、お墨付きのこれを、誰に食べさせる気だったの?この、日本の指を象った甘いお菓子を」
「え、ですから」
「自分に―――って、言うんだ?」
「はい」
フランスは、すっと笑った。その笑みは、彼がいつも見せる何かを覆い隠すようなそれではなく、何かを切り裂くものだった。
「じゃあ、俺が食べさせてやるよ」
うっすらと笑ったままで、フランスは更に指を白い粉の中に差し入れた。先に割れた砂糖菓子の蜜に触れて、脆い砂糖の殻はすぐに壊れた。既に割れた、しかも片栗粉にまみれたそれを、容赦なくフランスは突き出してくる。
「ほら」
「え、あ」
唇の動きに釣られて開いた口に指ごと蜜は注ぎ込まれた。フランスの長い指は、日本の奥歯をなぞり、前歯の裏をかすめて舌を擽った。
「…っ、く」
とりあえずは指を清めようと舌を動かす、その口を蹂躙する指は、確かに甘く、そして強い酔いを感じさせた。
「ふらっ、んっ……」
力の抜け始めた日本の腰をもう片方の手でフランスは支え、る、ついでに腰椎をなぞった。
「あ、…んっ」
ぞくぞくとかけあがるものを感じ、日本は両の手でフランスの服の脇を掴んだ。がら空きになった袷を、口から引き抜かれた手が暴く。背をテーブルにつけさせ、大きく前をくつろげさせ、フランスはまた白い粉の中に指を入れた。今度は慎重に固まりを取り出し、それを日本の胸に乗せる。外気に触れて、何より刺激を期待して尖り始めていた赤い蕾がその小さな重みを察知する。
「あ、あ」
「そんなに感じてたら、割れちゃうよ」
いくら開発されてしまった体とはいえ、流石にそんな力を持ちはしない。けれどもじんわりと汗がにじみつつある胸は、その湿気で砂糖の殻を壊してしまうに違いない。そしたら、あの蜜が、たらりと。
「あっ…んっ」
想像して紅潮した日本の顔を見つめたまま、フランスは舌を細くして顔をさげた。近づいてくる、砂糖の要塞に。そして、割る。舌先は、蜜とともに乳首を襲う。
「ああっ…」
つ、と脇を通って下に垂れた雫を見やり、フランスは「ごめんね」と言った。「この浴衣、洗濯しなきゃね」
だから。
もう、思いっきり汚していいよね。
舌は四方に垂れた糖液を舐めとるように日本の体をなぞった。すぐに乾く唾液とはちがい、それはむしろべたつきとなって体中に広がっていく。舌はぬめるように動いた。粘度の高さからか、時々にちゃりと音がして、日本をいたたまれなくさせる。ひくつく尖りをまるで飴の先のように吸い上げて、フランスはにっと笑った。
「すっごい、いい匂いがする」
それは、そうだろう。しかし日本自身は、羞恥とあいまって、その甘さと酒精に目眩がしそうだった。
悪酔いに似た気分は日本の意に反してその浴衣を持ち上げ始めた。フランスが笑みを含んだ声で聞く。
「いつもより感じてる?」
「そんな、こと、な」
「うそ」
素早く帯を解いて、外気にさらされたそれを、フランスは小さく弾いた。
「んっ…!」
「とろっとろだよ」
言われるまでもない、先走りが既に根本に伝わるほどになっているのは自分でも分かっている。ふるふると震えるそれを指でなぞって、その蜜を塗り広げるようにして、フランスは言った。
「ねえ、気持ちいい?」
「え…、は、い…」
「よくない?」
それまで指先から一部に伝わるだけだった刺激が、いきなり全体に及ぼされた。
「はっ…んっ」
握りこまれ、すりあげられて、思わず背が反る。乱暴なようでいて実はポイントをそらさないその動きに日本は思うさま翻弄される。
「あっ…ん、あ、…っ」
「いい?」
「いい、いいです…っ!」
「ふ」
ちゅ、とフランスは先端に口づけを落とし、自身の前をくつろげた。その反りあがった形を視界に入れて、反射的に後腔がひくりと動くのをはっきりと感じた。
それ、が、欲しくて。来訪の約束があればそれだけで体が熱くなるほど、欲しくて。ずっと、何ヶ月も待っていた。迎える前に風呂を使うのは、ただ頭を冷やしたいからだけではない。体の隅々まで清めて、不快感を与えること無くそれを受け入れるためだ。
「……早く、来て……っ」
「欲しい?」
フランスはにやりと笑い、そのそそりたつもので日本の雄芯を突いた。
「あっ…!!」
脳髄がしびれるような興奮に箍を外して、日本はがくがくと頷いた。
「それが、欲しい、です」
「そっかー」
フランスは片方の口だけで笑った。
「日本は、いつも、この辺になると素直になるよねー」
「…?」
「それまでは清純そうな顔してるのに、いきなりかくんとスイッチが入る」
いいながらフランスの指は戸渡りをなで下ろし、その奥の柔らかい袋を軽く揉んで、更に奥へ進んだ。ほとんどテーブルに乗り上げているせいでフランスの視界に晒されている筈の花弁が物欲しそうに蠢いたのが分かった。
早く、欲しい。
肉の襞をすっと撫でて、フランスは指を外した。あちこちがどろどろの浴衣の、それでも残った乾いた部分で指を拭き、再度パッドに指を差し込む。
「これ、自分が食べるためだって言ったよね」
「……ええ」
またぶり返された話題に、霞の入っていた日本の脳はぼんやりとした返事をかえした。
「……じゃ、食べさせてあげるよ」
フランスは慎重につまみ上げた砂糖菓子の弾丸を日本の後腔にあてがい、つぷ、と差し込んだ。
「ひ」
侵入に体は慣れているとはいえ、その異物感に内蔵は激しく伸縮した。あっという間にそれは胎内で割れ、蜜をばらまく。アルコール吸収の早い直腸のこと、酔いが急激に回ってかっと後頭部が熱くなり、日本の芯は更に張り詰めた。
「早く来て…おかしくなる…っ」
既になっている、そう思いながら懇願した。
「入れて…っ…おねがい……」
「誰に来てほしいの?」
何を言っているのだ、この人は。他に誰が。地団駄を踏みたいような気持ちで日本は言った。
「ふらん…さんっ…!」
「あ」
その切願を知らぬ顔に、横を向いたフランスは、金平糖の瓶を見つけたらしい。器用に片手で開けて何粒かをテーブルに転がした。
「これを伝えたのは、誰なんだっけ。コンフェイト…はポルトガル語か」
その粒を指先でつまみ、日本の胎内に送り込む。
「ひっ」
同時に入れた指で金平糖を転がして、内壁をかき乱していく。
「あっ、んっ、あ」
強い酩酊の中で前立腺を砂糖菓子の角が次々に押し回るのを感じ、日本は強い射精感に襲われた。が、いつの間にか根本を握っていた指がそれをせき止める。
「ひい、んっ」
快楽の強さと解放を阻まれた苦痛とに、日本は泣いた。
「ケーキは英語、トルテはドイツ語、ジェラートはイタリア語…」
金平糖も二個に、指も二本に増やされる。中でばらばらに動き回るそれらは、もはや日本の理性を壊す仕事しかしていない。
「……俺だけ特別だって思い上がりたいのに、な」
何を言っているのか、もう理解できない。
「『俺が』欲しいって言って欲しいんだけど……日本は、これ、のことしか欲しいって言わないね」
指が抜かれ、代わりに、それとは比べものにならない重量が胎内に押し込まれる。
「ああっ………!」
思わず目をつむった、その瞬間また涙が零れた。
「まるで」嫉妬するかのような、「まるで」独占したがっているかのようなフランスの台詞。そんなもの、信用できない。ずっとずっと憧れてきて、ずっとずっと片思いで。その間ずっと、他の誰かに同じような言葉を囁くのを横目に見てきた。いつも余裕で、いつも大人で、誰に振られても変わらない人。そんな人に、気の迷いで声を掛けられたからって信用できる筈がない。
ただ一つ信じられるとするなら、ごまかしのきかない筈のその欲望の形。屹立だけが日本を安堵させる。
突いてください、奥まで。その形で、劣情だけを私の躯に伝えて。
明日になれば流し去っていい、未来になれば忘れていい。いつか貴方は私を通り過ぎていく、その覚悟ならもうできている。
そう思って抱かれているのに、フランスの動きも、言葉も、香りも、抱擁も、全て甘い弾丸となって日本を撃ち続ける。胎内でフランスを包む糖液が、同じくらいの毒性でこの人を侵せばいいのに。そう思って、小さく力を込めれば、フランスのくっと眉を顰めた切なげな顔にまた撃たれ、こぷり、と、どこかから露がこぼれた。