『Sir, I send a rhyme excelling』 新書版/オフセット/148P/1000円 カバー・表紙イラスト くにえ様 アルフレッド×菊(パラレル/R18) ※以下に地雷のある方はスルー推奨 ・1940年代史実描写 ※サンプル※ |
「面倒なのは苦手なんだ」
「……人生面倒なことばっかりじゃないですか」
「黒がすごく深い。それの上に白菜がのってて、綺麗というか、凄みがある。辛(から)い黒だ」
「俺は、本当に好きな人を一度抱けたら、もうそれで死んでもいいと思ってる」
「次、こんな風になっちゃったら、素数でもフィボナッチ数列でも唱えなさい」
誰もが無意識のうちにうつくしいものを探している、と菊は思った。ことばでもいい、思い出でもいい。与えられたそれだけでは人は死に自分を投げやれない。
「声を聞かせて」
「ニップだぜ?」「日本人、だよ」
「でね。君の声は、勿忘草の色なんだよ」
体だけのことと割り切れるならただ享楽に浸れたかもしれない。けれどもそれには、
菊は足を止めた。アルフレッドの広い背中を見、それからまるい月を見た。
――私たちは、真剣すぎる。
「……利用したんだな」
「君がそんな風にアメリカ人を冷たく憎んでいるとしても、俺は君が好きだ。
生まれが『立場』なんだったらそれは変えられないよ。性癖が変えられないのと同じだ。俺が俺であることは変えられない。でも君が好きだ!」
ひらひらと、ひらひらと、小さな夢が舞い続ける。