まだ日も高いうちに本日分の講義は終わってしまった。特段用事も無かったこともあって、アルフレッドはまだ日の高い空の下、港区方面に向けてバイクを走らせた。
高級マンションがみっしりと建つ都内の一等地。鬱蒼と緑に囲まれた有栖川宮記念公園からヒグラシの声が聞こえはじめる季節になった。道端ではこの不況でもまだまだ生活に余裕のありそうなマダムたちが、これから腰を据えておしゃべりをするカフェショップを検討している。その次の路地は大使館の集中する一帯。それぞれの国旗を掲げる建物群の周囲は今はひと気もなくひっそりとしている。小料理屋『菊』はこの丁目の先、この辺よりはやや、庶民的で落ち着いた通りの一角にある。
「菊、オハヨー。暑くなってきたねぇ」
まだ『準備中』の札が掛かった木製のドアを入ると、エアコンの風がすぅっと若者の身体に浮いた汗を冷やした。もちろんまだ誰ひとり客のいない薄暗い店内。唯一ほの白く光を放っている前方のカウンターキッチンの周囲から、カタン、ガサガサといった物音が聞こえてくる。
「……どうしたんだい、それ」
ケータイに『お時間があれば、今日は少々お早めに来て頂いても』とあったのはこのためか。飴色に磨かれた一枚板のカウンターにずらずらと並べられているのはカラフルな食品食材の数々だった。日本語で書かれたラベルは見たところ一つもない。というか、アルファベット表記ではあるが恐らく英語ではない、解読不能のものすら多い。
「おはようございます、アルフレッドさん。これですか? 先日のホームページから届いたんですよ」
食材の壁の向こうから答える声。すでに着物に割烹着のお仕事スタイルにチェンジ済みの菊が、どっこいしょ、と足元のダンボールからさらに食品を取り出す。
「あー……あれかい!」
そうだ、この前ネットショッピングとやらを手伝った海外通販サイトのことか、とアルフレッドは思い出した。一応Japaneseページもあったものの、途中で謎の言語や奇妙なカタカナ語が混じったり。あげくに文字化けを起こしてページが固まってしまい、彼の出番となったのだ。オリーブオイルのボトル、グリーンとブラックのオリーブ果実、真っ白いチーズに巨大なトマト缶、乾燥パスタに多種多様なドライフルーツ、謎の缶詰その他エトセトラ。それらは確かにアルフレッドにとっても、先日のネットカタログ上でうっすら見覚えがある。
実は、菊はそれほど外国語の読み書きが得意ではないらしい。店の客層こそ土地柄もあって日本語に不慣れな外国人も多いのだが、彼に言わせれば『どんなお国の言葉であれ、そのお客様の言葉に耳を傾けていれば自然と多少の受け答えくらい、なるようになるもんです』とのこと。じっさい彼は、こっちなどお構いなしに外国語でまくし立てるお客さんにも『はんなり』と微笑みを返しつつ、いつの間にか自分の世界に取り込んでみせるのだ。しかしリーディングとライティングについてはいささか……私は机仕事には向かないんでしょうね、と。日本人には珍しいタイプとも言えよう。
ついでに、いまどきウェブサイトのことを「ホームページ」とか言っちゃう、ITにもちょっと疎くて古風(?)なタイプでもある。そんな彼が、何というか色々怪しいあのサイトを一体どこから知ったのかが謎だ。どこの海外のサーバなのか、シンプルなデザインの割にやたら表示が重くてページの切り替えひとつに苛々させられた記憶がある。
「しかしまた随分色々買い込んだね」
「だってお安かったんですよ。もちろん、ものだってなかなかですよ」
とりあえずご試食どうぞ、と薄切りのバゲットにバージンオリーブオイルを浸し、海塩のフレークをひとつまみ添えて。それに幾種類かのチーズ、枝付きの干し葡萄をちょっとずつ盛った『ワインの肴』風の小皿を菊はカウンタの向こうから差し出した。これもエンダカの恩恵ってやつなのかなあ……と学生なりに世界経済の影響に思いを馳せながらパンを口に運ぶ。
「あ、美味しい。なんていうか、香りはソフトだけど、果実っぽくて味が濃い感じ」
「そうでしょう。ショップの名前をレーベルに掲げる看板商品だそうで、最初にお試しで一本だけ取り寄せてみたのがそれなんです。合わせる食材と喧嘩せずにさりげなく風味を増してくれそうなところが気に入りまして」
ですからこのお店はいける、と思って奮発しちゃいました! と割烹着の胸をぴんと張る。開店前だというのにいつのまにか手元のワインの栓が抜かれ、右手には赤い液体の入ったグラスがくるんくるんと揺れている。
「このオイルとパンとお塩だけで、お酒がどんどん進みそうですね」
「うんうん。あ、いや、飲んだことないけどね、俺。……取り合えずサイダーか何か、飲んでいいかい?」
評判の料理を出す料理人というものは、自分自身がこよなく美味を愛する食いしん坊である。それは当然の摂理として菊はその上、半端なく好奇心が旺盛だ。休業日に突然、調査研究と称してアルフレッドを呼び出してはニュースでも滅多に出てこないような国の料理のレストランへ連れて行ったりする。そこまで舌が繊細とは言えない臨時バイトを毎回同行させる理由は、なるべく沢山のメニューを注文したいから、という一点であろう。中には(これはいったい……何の……)(いや、俺でもこれはちょっと……)などと言いたくなるような謎の料理が出てきたりもするが、奢られる立場である若者のこと、基本的には期待される役目に従い、ひたすら皿をもりもりと平らげる。それを横目に菊は、んん、これは!?などという一品があれば、その場で写真をぱちぱち、手元のメモにさらさら。帰り道でさっそくスーパーへ入り、それらしい材料を見繕いつつ自宅で再現を試みるらしい。そうやって『菊』のメニューは日々更新されていくという訳である。
「……と、今年の夏メニューのメインはこの辺りで決まりですね。さ、アルフレッドさん、さっそく収納に仕込み、手伝って貰えます?」
「アイ、アイ、サー」
◇
そんなことがあった、約一週間後のこと。
「お久しぶりでェ、菊の旦那」
「おや、サディクさん、お疲れ様です」
開店時間とほぼ同時に入ってきたサディクと呼ばれる男。本日のスタイルはだぼっとした紺のカーゴパンツにごついワークブーツでどちらも年季十分だ。すでに汗が張り付いた白Tシャツはどこで買ったのか、背中にでかでかと筆文字で『漢前』とある。広尾という、いわゆるおハイソな土地柄でこれはなかなか、いや相当なファッションセンスと言えよう。
「いやァ、今日はほんとあっちィなァ」
と、体中からほかほかと湯気を出している男は、迷わず菊の真正面となるカウンター席に陣取った。
ええ、梅雨も来週には明けるんですとか、と何も聞かずして菊は生のサーバを準備する。口開けなので何度か空出ししたあと、琥珀色がキンと冷えたビアグラスに注がれる。
「ありやーッす!」
……かーーッ、うめェッ! と、一気に空くグラス。
「この陽気じゃァ魚もヒトも朝からうだっちまうってもんだ。週末まで真夏日ってねェ、ナカ日くらいはアンタに癒されねえと、いくら鉄人の俺も頑張れねェって話で」
それはそれは、と微笑んで菊は二杯目のビールを用意する。
「そうそう、先週は我侭を聞いていただいて有難うございました。お蔭様で無事、『初夏の岩牡蠣まつり』は大好評のうちに終わりまして。この時期にあれだけの種類と量、うちみたいなちっちゃい店に用意してもらうのは難しかったでしょうに」
「いやいやネタにうるさい広尾の『菊』のお願いとあっちゃァ、コッチもトーゼンの仕事をさせて貰ったまでで。さいですか、そりゃ俺の面目も立ったッてモンだ。築地の男の冥利に尽きまさァ」
アジア人とも白人とも異なる、オリエンタルで精悍な顔立ち。その外見でコテコテのべらんめえをまくし立てる彼、サディク=アドナンは、もう長く『小料理屋 菊』と懇意にしている鮮魚の卸業者である。来日一年目こそコトバも怪しい『体力自慢のバイトのガイジンさん』であった彼も、今や立派な業界人。何人もの後輩たちを従える中堅であるようだ。角刈りに硬そうな顎鬚、ゴムエプロンにゴム長スタイルで江戸弁を使いこなす姿は築地市場という職場の風景にあまりに溶け込みすぎて、新人の中には彼が『生粋の、トルコ育ちのトルコ人』ということを知らない、あるいは聞いても信じない者もいるらしい。
築地の朝、特に鮮魚部門は早く、市場の締めも早い。よって彼が客として店に来る日はたいてい口開け、一番乗りとなる。自分の財布で後輩たちを飲ませることも多いという面倒見のいい彼だがこの店にくるのはほぼ一人で、それはつまり……まあ、すでに伸び始めている鼻の下を見れば大体分かるというものだ。
店名の由来ともなっているその本名から誤解を受けやすいが、菊はまごうことなき男である。中性的な顔立ちに細い手足を持っているけれども、その意外なほど低めの声を聞けば誰もが「えっ」「なるほど」という顔をする。しかしそれでもなお、今どき着物に割烹着スタイル、ヤマトナデシコを思わせる控えめで上品な所作と外見、それに天性とも思える聞き上手の癒し力も相まってだろうか。菊は常連客たち――場所柄か特に外国人率高し――の間での、密かなマドンナ的存在である。常連の職種も国籍も様々、近所の大使館勤めは勿論のこと、カフェオーナーに謎の小説家、地元の不動産屋に花屋にデザイナー、呉服屋に大学講師と縦横無尽。その中には『お客さん以上の関係』を狙っていそうな者もちらほら見て取れるが、この店は客同士が大概すぐ知り合いになってしまうこともあって、今のところは「みんなのものだから抜け駆け禁止ね!」的無言のルールが出来上がっている。が、この男がその『無言のルール』を読めるタイプなのかどうかは怪しい。本人はあくまで「菊の旦那の男っぷりに惚れてねェ」などと語るが、カウンターで彼と話すときの表情はいっそあからさますぎるほど、美人の若おかみにデレッデレ、といったそれなのである。
「お通しです」
「おお、戴くぜ」
ことり、と置かれた濃藍の磁器皿の上には、スパイスとハーブを混ぜた粉を薄くはたいてからりと揚げた小魚と、その横につやつやとした黄緑色がこんもり。
お、豆鯵にこれは、茄子の浸しかい、と冷菜をひと口運んだサディクはぴたり、と箸を止めた。無言でじっ、と菊の表情を伺う。何も答えずにこにことスマイルを返す彼を確認して再度目線を皿に落とし、ようやく独り言のように呟いた。
「こいつァまた……懐かしい」
茄子は茄子でも、これは炭火焼した茄子をペースト状に叩き、塩、ニンニク、レモン、ヨーグルトで味付けしたものだ。日本人にも馴染む味だが、国内で味わう機会は滅多にないだろう。
「今年の夏はひとつ、夏野菜を中心に地中海のおそうざい風、をテーマと考えておりまして。目下、勉強中なので本場の方にお出しするのはお恥ずかしいのですが」
「……いやァ、この『菊』で、アンタの手でてめえの懐かしい味が味わえるたァ、思ってもみなかった。こいつは俺も久々に書いていかねえとな」
と、サディクは目の前に立てかけられていた三つ折のメニューを開くと、ポケットから業務用のマジックを取り出した。この店のメニューは客が読む、というより客が思い出深いお気に入りの一品を書き綴り、残すためのノートである。何ヶ国語もの言語ですでにびっしりと書き込まれている紙面になんとか余白を見つけると、
「今年の夏のお勧めはパトルジャン・エズメ。土日語の二ヶ国語で書いとくかねェ……近所のロカンタを思い出しちまったぜ、と」
「本家のお墨付きとは光栄ですね。ロカンタ、とは、食堂のようなものでしょうか」
「そうさなァ、ロカンタってのはイートインもテイクアウトもできる、日本で言う惣菜屋ってトコかね。俺ァ実家が忙しかったモンで、ガキの頃からよく駄賃貰ってはお使い行ったり、買い食いしたりしたもんだ」
「ご実家は、いわゆる食品スーパーでいらっしゃいますよね。以前ちらしを見せていただいた、あの」
長男だという彼が、いずれは故郷で店の若旦那としての責任を負うことを期待されているのは間違いない。現在こうして日本に来ているのも、すでにワールドワイドな観光地と化しているあの『Tsukiji-market』で勉強がしたい、という名目があってのことである。彼が職場でめきめきと頭角を現したのも、子供の頃から両親を手伝っての経験によるところであろうことは想像に難くない。
サディクの故郷、トルコは自給率百パーセント超の農業輸出大国であり、トルコ料理は世界三大料理のひとつに数えられている。
かつて数千年もの間、西洋世界の歴史の中心は地中海周辺にあった。ペルシア、アテネ、エジプト、ローマ帝国。世界一有名な二千年前の物語――聖書に登場する食材の数々、ワインや小麦、オリーブ、いちじくなどは、今もそのまま地中海の食生活に繋がっている。宗教の制約により多少の差はあれど、基本的には野菜が多く、素材の味をできるだけ壊さない料理法だ。シンプルに焼く、煮る、和える。少々のハーブは加えるが、スパイスや調味料、油を使いすぎることはしない。そのためか近年は健康食としても注目されているらしい。
「イタリアのパスタやオリーブオイル、スペインのトマト缶。バッグだとかのバカ高ェ皮製品でさえ、中身の大半はうちが原産だったりするんでさァ。それをなんでェ、ブランドだ何だァと宣伝だけはうめェヨーロッパの連中はこいつを自分のとこのラベルを貼り付けて高く売っちまう。そらァお得意様だけどよ、大して歴史もねェあのド田舎連中、どうも俺ァ好きにゃなれねェ。その点、日本のお前ェさん方は、愚直って言い方だと悪ィが、やり方にああいう小賢しさが無ェのが気持ちいいんでェ。
だいたい西洋料理ってのもなァ、元々はうちが発祥みたいなもんのくせにでけェ面しやがって。特にフランス料理だァ? ありゃァ上品ぶってるが、俺に言わせりゃ小手先を凝らしただけの無駄なお遊びでねィ。食材ってのはできるだけそのまんまを引き出してやるのが料理人ってモンで、いい素材にゃァ「クリーム」だか「おソース」なんていらねェんでェ」
その点日本の『サシミ』と言ったらあの潔さ、若ェ時の俺ァ、アレに惚れて……などと、少々過激すぎるサディクの持論は尽きることは無い。あわやフランシスやその他、欧州各国からの常連が聞いていたらどんな面倒で恐ろしい事態となることか。悪い男ではないが、毎回店側としては内心、冷や汗たらりである。(長年焦らされてますもんねえ、EUさん方には)とは思っても、口には出さないのが大人であって。
「――そうそう、自分ちじゃ惣菜は作ってなかったもんで、家の晩メシも仕入れでご贔屓にしてくれてるロカンタで済ませちまったりね。やっぱり自分ちから出した子が旨ェ料理になってるのは有り難ェもんで、今こうやってアンタんとこに通っちまうのも親の教育の賜物って奴かねェ……」
箸を置き、思い出に耽るように目を閉じる。
「いやァ、今夜の俺はここ最近無かったくれェに幸せに酔えそうだ。そうでェ、Rakiのボトルがまだあったら出して貰えるかィ? 久々に臭ェのを飲みてえ気分でね」
「ええ、勿論」
Rakiはライオンのミルクの別名を持つトルコの地酒。アニスの香りをつけたブドウの蒸留酒の一種ではあるが、あまりにクセが強いためにほぼサディク専用のボトルとなっている。ストレートの状態では透明だが、水で割るとみるみる白く濁っていく、不思議なアルコールだ。
「今日は飲みを中心になさいます? 料理は次々出して宜しいでしょうか」
「食うのも飲むのもフルコースに決まってんだろがィ。給料後で懐もあったかいんで、幾らでも絞ってくれて構わねえぜ?」
「かしこまりました。ところで……ふふ、まだ気づかれませんでしょうか?」
ドライフルーツの入った大袋の端をさくさくとはさみで切りながら、菊は何気なく問いかけた。二杯目のビールを空けてRakiを細グラスに注ぐところだったサディクが、びくんと動きを止める。
「ウンッ? ……俺としたことが、気づかねェ内に何か失礼しちまったかい?」
「いえいえまさか、でも貴方ならすぐ分かるかと……ってはずだったんですがねェ……」
語尾をちょっとだけ真似して、「ふふっ」と、いたずらっ子のような目をして微笑まれて。サディクが思わずどぎまぎした表情で口ごもったその時、ぴりりりりりり、とカーゴパンツから甲高い電子音が流れた。
「おっとォ失礼!」
「いえいえ、お仕事でしょう、どうぞ」
「すまねェ……俺だ、何があったんでェ。――何ィィ、おめェ、それは本当かい!?」
ごく真剣な表情でがたりと席を立ち、送話口を押さえる。小声での訴えは、(すまねぇ菊、どうか皿はそのままで、席もひとつ取っといてくれ)だ。
「合点です、いってらっしゃいませ」
「恩に着るぜ!」
礼と同時に外へ飛び出す。ダッタッタッタッタ……と遠くへ走り去る靴音。
「アワタダしいなあ……」
カウンタ内と繋がるキッチンホールで根菜の皮むきに専念していたアルフレッドが、開けっ放しにされた入り口を閉めに向かう。
「頼られる方というのは大変ですね。一人の楽さに慣れてしまった私には、生まれ変わっても真似できませんよ」
まだ少しお通しの残っていた小皿とRakiのグラス、ボトルにはてきぱきとラップをかけて、奥の冷蔵庫へ。
「アルフレッドさん、席に『ご予約札』置いておいてくださいね」
……一人の楽さ、か。そりゃ臨時バイトの身とはいえ、あっさりと数に入れられなかったことがちょっと寂しく、若者は気づかれないようにため息をこっそりと吐いた。
◇
その約三十分後、というところだろうか。
ギィ。
のっそりと入ってきた男は、この店でははじめて見る顔だった。
焦げ茶色の癖毛はごく無造作、もみあげ辺りが半端に伸ばされている。目鼻立ちや眉はかっしりとして、ひと目で外国人だとは分かる。長Tシャツにデニムという素っ気の無い服装だが、彼特有の雰囲気のためかデザインかアート関係のヒトですよ、なんて言われれば信じてしまいそうだ。ドアの前に立ったまま、ゆっくりと店内を見廻している。
「イラッシャイマ……」
「キ、ク、を探してる、んだけど」
開口いちばんは、たどたどしい日本語。この店では珍しいことではない。
「OK、『菊』ならここで合ってマスけど」
対応するアルフレッドの顔をじろじろ見ると、何故かちょっといぶかしげな顔をする。
「なんか、ちがう気がする……」
「違ってないさ。広尾に『菊』はここ一軒だけなんだぞ。菊、新規っぽいお客さんだよー」
キッチンからはいはーい、と返事。いそいそと出てきた店主が、カウンタからお辞儀をひとつ。
「いらっしゃいませ。こちらは『小料理屋 菊』ですが、お探しのお店は――」
「キク……!」
謎の新規客は、菊の顔を見るなり、感嘆の声を上げた。
「ええ、菊はここの店の名前でもあり、私、店主の名前でもありますね」
「ああ……キク、だ」
「お間違えなかったですか。お料理は食べていかれます?」
じっと菊の顔を見つめ、うんうん、と納得した顔で頷く。
「たぶん、間違い……ない。食べる、食べに、きました」
「この頃はこの時間でもまだ日が落ちなくて。外は暑かったでしょう」
菊は男にサディクの予約席のふたつ隣のカウンター席をすすめて座らせた。
「アルフレッドさん、お客様に冷たいおしぼり」
(知り合い?)
アルフレッドがすれちがいざま小声で問いかける。菊は目線でうーん、と答えた。
「おしぼり、どうぞ」
「つめたい……」
暑かったのだろう、男はおしぼりを頬に押し当てうっとりとしている。
「メニューは……これ?」
「うん。けど、この店のじっさいの主なメニューはレコメンド、すなわち『今日のオススメ』なんだけどね」
「ふうん……じゃあ『オススメ』、クダサイ」
「かしこまりー。で、こちらの冊子がドリンクのメニューで、」
「ん……トリアエズビール」
とりあえずビールという日本語は知っているあたりがなんだかおかしい。生ビールを出せば、今度はグラスや泡を眺めたり、くんくんとしきりに香りを嗅いだりしている。ちょっと動物っぽい、なんて表現したら失礼にあたるかもしれないが仕方あるまい。気が済んだのか、くっ、とビアグラスを一気に半分まで飲み干した。
「うん……つめたくてオイシイ。けど、ちょっとニガメ、かな」
「日本のビールに慣れない方には、よく言われますね。お食事でしたら、軽い白ワインなどもお勧めがありますが」
「じゃあそれ、で」
ほどなくサディクの時と同じ、豆鯵のスパイス揚げに、茄子のペースト、それに白ワインの注がれたグラスが男の前に用意される。
「お通し……アペリティフです」
すると何故だか彼もまた、茄子に興味しんしんのようだ。
「……メリジャノ、サラタ?」
「ふふ、なるほど、そういう呼び名もあるのですね」
箸は使えないらしく、フォークで黄緑の山を口に運んでは、ウン、ウン……と聞き取れない独り言を呟いている。ワインの存在を忘れて皿を空にする程度にはお気に入りであるようだ。言葉少なで動きもスローペースながら、その感情の動きは分かりやすいという謎の人物。今は目の前の例の『お客の感動記録帳』ノートをじっと眺めている。と、急にムムム、という表情で眉をひそめた。肩掛けしていたカバンからペンを取り出すと、店の説明も聞かないうちになにやらがりがりとやりはじめる。
「――箸休めにはちょっと早いですが」
かぼちゃとドライフルーツの炊き上げです、とほどなく菊が次の小鉢を置いた。黒塗りの椀の中、色つや良く火が通ったかぼちゃ。その上にとろり、とくずれかけの薄ピンク色の果実がジャムソースのように添えられている。
「お口に合えばいいのですが」
男は、フォークでひと塊すくったそれをじっくりと眺めたあと、ようやく口に入れた。甘さ控えめにほっくりと炊き上げられた南瓜に、プチプチとした舌ざわりの残る甘酸っぱい果実味が濃厚に絡まる。素材の取り合わせの妙を楽しむ一品である故、調味料の味付けはごく最小限だ。
「これ……『シコ(いちじく)』?」
「ええ、そうですね」
ひと呼吸置いて、菊がふわぁ、と微笑んだ。
「いい素材を使っているでしょう――ヘラクレス、さん?」
「!」
ヘラクレスと名前を呼ばれた男は、ぱち! と目を見開き、菊の顔をふたつの深い青に映す。そして、
「うん、キク! これすごく……おいしい……!」
つられるようにふわっ……いや、ぶわぁっ! っと顔を綻ばせた。
――……と、感動的な雰囲気に包まれた、そのいいタイミングで。
「菊! すまねェ、只今戻って来たぜェ!」
勢い良くドアが開くと同時に、威勢のいい声が店に響き渡った。
「お疲れ様です。お席、こちらですよ」
「ありがてェ……いやァ、ちぃーッとうちの若ェのが六本木のお得意先で注文間違いのヘマやらかしちまってなァ。まァ俺がいつも通りスパァーンと納めて来たって話だけどよ。帰りはソイツに送らせたんで、意外と早く戻れ……っとォ、見ねェ顔だなお前ェさん、ご新規さんかィ?」
「…………」
ヘラクレスはじぃーっ、と二つ隣の『予約席』に着いたサディクの顔を見ている。と、その眼がじわじわと据わっていった。ついさっきまで歓びに輝いていた表情は、いつの間にか「怨」の字に変わっている。
「……サディク、死ね」
「はァ? ……おいィ、何言ってやがんでェ、新入り」
「……死ね、もしくは帰れ。俺はキクに、会いに、来た。……お前、いらない」
「ンッッだとォォ、こらァァ! テメェみてェな田舎っぽいクソ餓鬼が菊の旦那と話すなンぞ、百年早ェんだよ! 表に出やがれ!」
「……サディク、うるさい……あと、これもなおしておいた」
と、ヘラクレスはべらんめェの啖呵に物怖じもしない様子で、先程書き込んでいたメニューを投げつける。
「あァ?……って、」
サディクが素早く紙面に目を滑らせると、ははァン……とこちらも目を据わらせた。
「てめェ、ユナニスタンか……何ィがめりじゃの何たらだてめェ! アレはパトルジャン・エズメってェ正式名が百億年前から決まってんだよ! いい加減認めやがれコノヤローッ!」
「認めない……あれはメリジャノサラタ、だった……」
さすがに異変を感じたアルフレッドも厨房から飛び出してくる。
「君たち! 喧嘩なら外でやってくれないかい!?」
「メニューはお店の共有財産ですから、丁寧に扱ってくださいねー」
カウンターの外から内から諌めるも、両者はすでに席を立ち、殺気を放ちながら胸ぐらを掴み合ってギリギリと睨み合っている。まさにこの『菊』が開店して以来、初の凄絶な殴りあいが始まろうという雰囲気だ。トルコ人とギリシャ人の仲の悪さは有名であるが、ちょっとこれは尋常ではない。たまに皮肉の応酬や小突き合いがあるとはいえ、あの常連のイギリス人とフランス人の小競り合いなど、なんて大人で可愛いものであった、だろうか……。ふぅ、と菊は大きく息をつき、そして吸い込んだ。
「仲良くできない子は、うちの敷居を二度とまたがせませんよ?」
ぴた、と二人の空気が止まる。
「(おい……シキイ、ってなんだ……)」
「(バッキャロ、入り口の下の横木ってこった、要するに入店禁止って事でェ)」
「(それは……困る……)」
かたん、と二人は大人しく元の席へ着いた。
「素直で宜しい。
さて、次のお皿はちょっと実験作なのですが……大皿に盛りますので、お二人で仲良く分けて召し上がってくださいね?」
よっこらしょ、とカウンターに下ろされたのは透明な厚手のサラダボウルいっぱいに盛られた、ゆうに三人前はありそうなサラダだ。底にレタスが敷かれ、中の具材は皮をむいたキュウリ、トマト、ブラックオリーブ、それに白いダイス状の固体がたっぷりと和えられている。山の頂上は薄切りの紫タマネギでうっすら覆われ、ハーブ・スパイスがぱらり。レモンの串切りも添えられている。
「これ……ホリアティキサラタ(ギリシャサラダ)だ……」
「それを言うならアクデニズ・サラダ(地中海風トルコサラダ)だってんでェ」
「さて、仕上げはここからなのですが」
と、菊が小ぶりのガラスのピッチャーを取り出した。濃い茶色の中身をくるくるとマドラーでかき混ぜている。
「古来より日本の食文化というものは、美味しいものをそのまま頂くだけでは飽き足らず、どうしてもアレンジ――そう、自らの魔改造なくしては満足できないというお国柄でして」
明らかに地中海料理とは異なる、香ばしいかおりのそのドレッシングを全部ボウルに空けてしまうと、ざっざっざっと手早くサーバスプーン・サーバフォークで和えていく。
「アレンジ版ってわけですかィ」
「ふふ。さて、ここで仕上げの追いオリーブです。大洪水の後、漂流し続けていたノアの一行。箱船から放った鳩がオリーブの枝をくわえて戻り、彼らは新天地の存在を知った……という伝説でしたでしょうか。鳩にオリーブ、このふたつのモチーフは後に平和の象徴となったのですよね」
きゅぽん、と手元に取った瓶の栓を開けると、二人がラベルをよく見えるように、少し上のほうから黄金色の液体をたらたらたらーっと回しかける。あとは形良くサラダを手元の貝をかたどったガラスの小鉢に取り分けて、さあ召し上がれ。しかし両者ともすぐに箸、あるいはフォークをつけようとはしない。ヘラクレスの方は先程のドレッシングが気になるのか、まずは香りを確かめているようだ。そして、もう一人は。
「……アンタ、そのオイル……いやァ、まさか、」
「いいオイルでしょう? 『Zeytin gemiler(ジーテン・ゲミラル)』印ですもんね」
「ンな、……マジかィ!?」
「やっと気づいていただけましたか、親不孝さんですねえ」
と、菊は少し皺になっているカラフルなペーパーをカウンタ内の引き出しから取り出してみせた。
「ジーテン・ゲミラルはトルコ語で『オリーブの船』という意味で宜しいのでしょうか――以前にご実家のものだと見せていただいたチラシの隅にURLがあったんです。海外通販を始められたのはごく最近のようでしたが、せっかく日本語サイトまで用意して頂いているようですし。しかもトルコリラ決済とだけあって、アドナン家いち押しの高品質ラインでもユーロ圏のショップよりずっとお買い得なんです。ぜひ、これからも利用させていただこうかと」
「な、な……?? 俺の父ちゃん母ちゃんなんぞ、パソコンなんざ俺より使えねえ年寄りのはずじゃァ……」
種明かしに呆然とする男をよそに、ヘラクレスは既に小鉢の半分ほどまでフォークを進めていた。
「これ、はじめて、食べる味……ナカミも、ちょっとちがう」
「自家製醤油ドレッシングの隠し味はわさびと焦がしにんにくです。具材は、本来ならば羊の乳から作ったフェタチーズをたっぷり使うべきなのですが、このドレッシングですとそれでは少々重い組み合わせになります。そこで、同じ大きさのさいのめに切ったまくわうりと、重石で水を切った木綿豆腐をフェイクで入れているんです。わさびは風味付け程度ですが……辛くありませんでしたか?」
「ちょっと不思議なスパイス……けど、これもオイシイから、大丈夫」
「はるばるお尋ねしてくださった『中の人』に喜んでいただけて何よりです。やはり『里子に出した先は、自分の舌で確かめる』というのがお店の方針なのでしょうか、ヘラクレスさん」
「へラクレスッ、だとォ?」
その名を聞いてサディクは、またもや声をひっくり返し、あらためて隣の男の顔をまじまじと覗き込んだ。
「おめェ……まさか、あん時のヘー坊かァ?」
「知らない……」
「おい、マジかァ!? この十五年、いや、二十年は顔見てなかったぜ!?」
アドナン家が代々営む食品スーパー『ジーテン・ゲミラル』が店を構えるのはトルコの西端、ギリシャとの国境付近にあたる。場所がら隣国からの客も多く、近年はギリシャ食材も多く取り揃えるようになったという。そんな折、新しく従業員として入ったのが離婚したばかりの子持ちのギリシャ人女性、ヘラクレスの母であった。ギリシャ語に加え少々のトルコ語も話せる彼女は、二ヶ国語対応のスタッフとして大いにその能力を発揮した。住み込み同然で働く彼女とその息子はアドナン家の新しい家族のようなもので、まだ少年だったサディクはこの幼い子供を近所に連れまわしては一緒に遊んだり、近所のロカンタで子供だけの夕飯をとったり、弟同然に可愛がったものだという。四、五年ほど経って彼女の再婚が決まり、親子はギリシャへ帰っていった。サディクの記憶はそれっきりで、よもやあの時の子供が今や実家のスーパーの正式スタッフとなり、さらに世界に向けて通販事業まで始めていた事実など知る由もなかったのである。
そういえば、ヘラクレスはひと目会ってすぐに『サディク』と彼の名を呼んでいた。しかし、彼はヘラクレスをすぐには思い出せなかったのだ。あの物騒なひと言も、そんな自分への恨みを込めた意味合いだったのかな、とサディクは少々反省する。
「……そっか、まさかヘー坊がうちで働いてるたァ……だったら連絡くれェよこせばよかったじゃねェか。部屋はせめェがお前ひとり位は寝させてやれるし、次の休みに東京案内くれェしてやらァ」
「別に、お前に会いに来たわけじゃ、ない……キクに会うためだから……」
「はぁ!? 通販の件は分かったけどよ、お前ェ、初対面のくせに、妙に慣れなれしくねぇか?」
「日本のお客さんは、キクが初めてだった……。それで、コンゴトモヨロシクオネガイシマス、っていうメールが、キレイな、でも俺の知らないたくさんの料理の写真といっしょに、来て……」
顔も性別も分からぬメールの送り主、キクへの興味が強烈に沸いたのだという。ちょうどバカンスシーズンも始まり、休みが取りやすかったことも幸いした。
「『いつか食べに行きマス』ってご返信のメールアドレスの先頭が、お店のではなくてヘラクレスさんのお名前になっていたんですよ。……わずか一週間後にいらっしゃるとは、さすがに予想外でしたが」
カウンターでも自分のところの商品をしきりに目で追っていたため、名乗らぬ彼がヘラクレスと分かったのだという。
「俺、キクは女性かと思ってた……。けど、想像よりびじんだったし、料理も美味しいから問題、ない。……ばかサディクが帰ってこないわけも、よく、わかった」
「おいこら小僧、何が問題ねェだ。抜け駆けお触りはこの店の第一禁止事項でェ」
「……おじさんとおばさんは、アイツが日本を気にいってずっと居るつもりなら仕方ないって言ってる……俺が居るから良いって……けど、本当は、」
「……そっか、悪かったな。ウチの親だってそう若くはねぇもんな……」
一瞬、角刈りがしんみりと肩を落とす。と、一転、よし! と威勢良く頭を上げ、席をヘラクレスの隣に移し、手元のボトルの栓を回した。
「よし! 日頃世話んなってる実家の礼代わりだ、今日……いやおめェが日本に居る間は全部俺のおごりで飲みねェ! 食いねェ! せっかく大人になったんだ、ヘー坊も、Rakiくれェイケんだろ?」
細コップ型のグラスは、サディクが戻った時点からとっくに、同じものがヘラクレスの前にも用意されていたらしい。
「Ouzo(ウゾ)のほうが、旨い」
「屁理屈抜かすな! それこそ同じようなモンだろーが!」
◇
再会を祝しての酒宴は数ヶ国語を交えつつ、閉店まぎわまで盛り上がった。いや、大いに盛り上がったのは約一名だったが、その彼は流石に酒量のテンションも上げすぎたのか、今はぐったりとかつての弟分に肩を預けている。
「俺……また、くる。それに『エレラド・ピリヤ』の支店、ヒロオに出せるようにがんばる、から」
すでに街の明かりも落ち始めたドアの前。ヘラクレスは、きゅう、と菊の両手を自分の両手で包み込んだ。名残惜しい、と何処か子どものような純粋さをたたえた双眸が語る。夜の地中海の波の色は、きっとこんな色をしているのだろう。
「ギリシャ語でのオリーブの船、ですね。それはそれは。愉しみにいたしますね」
「こらァ……俺の許可なしに菊の手ぇ握るんじゃねえ……百年早えぇんだよォ」
「酔っ払い、うるさい……」
「きちんと送り届けてあげてくださいね」
「……キクが、そういうなら、仕方ない……」
ドッコイショ、と大の男の肩を担ぎなおすと、
「あ、キク」
「はい」
「ゴチソウサマ、デシタ」
「ごっそさーん!」
◇
「嵐のような一日だったね……」
最後の客を帰した店内。すべての椅子をテーブルに上げ、床をモップで磨きながらアルフレッドは呟いた。
「あのふたりの幼馴染のことですか。仲の宜しいことで、妬けますねえ」
カウンター内の菊は、シンクを布巾で拭きあげながら、思い出し笑いをするようにふふっ、と微笑む。
「妬けるう?」
「一緒のものを食べているって、大きいですよね。家族単位でも、もっと大きい範囲でも。政治事情や国民感情として色々こじれることがあっても、食文化は一番先に互いに溶け出してしまう」
「そりゃあ、いわゆる言葉がいらない文化だもんね」
「一度覚えた味は捨てようとして捨てられるものではありませんしね。理屈を超えたところで人と人を繋いでいって、幸せな記憶を作っていくでしょう」
だから私、食堂という場所が好きなのですよ。と、最後の言葉は自分自身に確かめるようなニュアンスで。
アルフレッドは思う。
そういえば彼の、昔からの個人的な友人だとかそういうのを、自分は全然知らない。どうして「人を喜ばせること」にそれほどこだわるのかということも。プライベートでも、彼にはちょくちょくは会っているはずなのに。
どんな世界の食文化も器用に受け止めて、個性的なそれぞれのお客の心に叶うスペシャルを作ってみせて、いつのまにか自分のものにしてしまう、それが、菊。そのくせ自分は変わらない。客たちには、彼なしでいられないくらい『菊』をどっぷりと浸透させておいて。
なんかずるいって思う。
「どうしたんですか、珍しくアンニュイな顔して」
「別に。お腹が減ったなーって」
「そういえば今日はつまみ食いもしてませんもんね。じゃあ、今夜の賄いは残ってたひき肉と野菜の残りでムサカ丼にしちゃいましょうか」
「ムサカ丼? 菊ってほんと、なんでもどんぶりにするよね……」
もし彼に、ずっと傍に居ることを許した『特別なひとり』ができたなら。その人間は、優しくて、でもどこか孤高な彼を変えるのだろうか――と、まだ共に酌み交わすことすらできない青年はひとり切なく巡らす。
でも。
その彼が閉店後、自分用に密かに作る「美味しければいいじゃないですか」感たっぷりの極上やっつけグルメ、『菊のまかないどんぶり』を共に食す特権は今のところこの臨時バイトだけのもので。
「今度はニヤニヤして、ご飯に関してはほんとうにアルフレッドさんは分かりやすいですねぇ」
「もう、何とでも言いなよ」
(君といっしょにごはんをしよう。
おいしくて、幸せな記憶を沢山作ろう。
今日も、来週も、来年も、その先もずっと)