SSSsongs36(菊)
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※某保険会社CMの歌のフレーズを引用しています。
今、この国では30秒に一人が生まれている。 来週にもなればアルフレッドさんがやってくるだろう。あちらの三月は相当に寒い。最近は寒波もあって冗談にならないレベルだという。暖かさと美味しい食べ物のためなら太平洋もものともしない友人のために、少しくらい支度に気合いを入れてもばちは当たるまい。…大豆肉を鶏の唐揚げに見せかけることに気合いを入れても、やはりばちは当たるまい。あの国はもう少し野菜を食べるべきなのだ。――大豆を野菜と認識しているかどうかはともかくとして。 私は、私たちは多分――菊は思う。季節がそうであるように、うつりかわるものが好きなのだ。朝の光を受けて開き、夕方にはもう力を失う儚さも、にも係わらず次の日にまた別の花が咲くたくましさも。
全てのいのちは、限られた時間を力一杯かがやかす。
今、この国では28秒に一人が逝っている。 草花に比べれば格段に寿命の長いヒトは、その意味について考えたり悩んだりする贅沢を許している。まして、その意味を自ら否定する自由さえある。私にはそれはない――公園の桜の下に立ち、菊は口を小さく結ぶ。私を否定するひとがいようとも、私は私を否定してはならない。私を見限る自由はない。それが辛い時ももちろんあるけれど――死ぬ自由がありながら生きるのにはエネルギーが必要であることも分かる。 桜は、まだ三分咲きというところか。アルフレッドさんは華やかなのが好きだから、満開の「一番いいとき」にお迎えできるだろう。そして私は満開を過ぎ、散り始め、その落ちた花弁が公園脇の道にこぼれ、自動車の風に吹き上げられ、白い靄のようになるまで、毎日この花を見るだろう。 この国では、一呼吸をする間に、誰かが誕生している。 「…ウェルカム、私へ」 貴方が、私のもとへ生まれてきたことを、喜んでくれますように。 今生まれた貴方、貴方を産んだ貴方…。 貴方が、私のもとで老いることを、苦しまないでくれますように。 数十年前の今生まれた貴方、数十年前の明日生まれた貴方…。
「Happy birthday dear 誰かさん…」 誰かの、そして貴方の代わりに、桜の幹に手を回す。春日を浴びた木はほんのりと暖かく、声を合わせてくれるような気がした。 「Happy birthday to you」
桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり(岡本かの子)
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