・アル菊ショタパラレル。
・やまいネタ。
苦手な方はお戻り下さい。
「飲んじゃうの?」
隣を指さし、目を丸くして聞いたら王は大口を開けて笑った。そうして、腰を屈めて、この前三人で読んだ『ヘンゼルとグレーテル』の魔法使いみたいな顔と声で言った。
「お前のことも喰ってやろうかねえ……ぷくぷくと肥えて、うまそうあるよー」
そう言って人差し指で頬を突いてくる。王は「足のあるもので喰えねえものは机だけ」と豪語していて、実際山登りして採ってきたらしい野草もよく食卓にあがる(アーサーはあまり隣でご馳走になるなと言うが、王はアーサーの手料理を「児童虐待ある」と断言していて、兄弟姉妹にプラスして俺の分も作ってくれる)。
もしかして今、王の目には子供ならぬ子豚が写っているのではないかと考えていたら、隣からばふんと菊がかぶさってきた。
「だめですー!にーに、アルを食べちゃだめー!」
ぷす、と堪えきれず吹き出す声が、俺には聞こえた。過剰だとは思っていたが演技だと分かっていた俺も菊の必死な様子に頬が緩む。
「あのう、あれです、もっと太らせた方が美味しいです!」
「…」
童話を思い出して言ったのだろうけれどもその台詞に俺は憮然とし、王は爆笑した。
「どれどれ、今はどれくらいあるかなー!?人差し指を出してごらんー?」
笑いながら指で輪を作って俺に向ける。と、いち早くその中へ菊が指を突っ込んだ。
「ほら!」
「……」
俺と王はそれぞれ菊を見つめた。ほら、じゃない。鶏ガラか、とツッコむこともできないその指をしばらく見て、王は話を最初に戻した。
「飲むのは、この菊じゃなくて花の菊あるよ。年中行事ね。菊の花弁を浮かべた酒を飲んだり、菊の花を漬け込んだ酒を飲んだりするね。お前達には菊花茶を用意してるから、後で持ってくるある。急須の中で菊の花がふわっと開いてきれいあるよ」
「うわあ……ね、あのガラスの急須に入れてください」
「当然あるよ。菊花茶をガラスで見ないでどうするね」
「あ!」
突然声を上げた俺に、二人は怪訝な顔を向ける。
「見抜いたんだぞ!1/1、3/3、5/5、7/7、9/9。日本の行事って全部奇数だ!」
「わあ!すごいですアル!」
ふふん、と胸を反らした俺に、王はあっさりと「そうあるよ」と頷いた。なんだ。発見かと思ったらしゅうちのじじつってやつだったみたい。
「それで、これは誰のお祭りなんだい?女の子の、とか、男の子の、とかあるんだろ」
「誰の、というか……」
そこで王は言葉を切り、菊の前髪を優しく撫でた。
「命長かれ、という節句ある」
「…」
菊は返事はせずに、にこ、と笑った。
アーサーもそうだけれども、王も茶を入れる作法にはうるさい。そして実際、給食のお茶なんかとは比べものにもならないとても香りの高いお茶を入れてくれる。若干講釈を垂れながら王は菊のベッドの傍らで急須に湯を投じた。ガラスの中で乾燥菊が開花のように膨らんでいく。
綺麗なものをみるとき、菊の黒曜石のような瞳はきらきらする。目がきらきらして見える人は目が悪い人であることが多い、そうアーサーに言われたとき、だからあんなに菊はきれいなのかなと聞いた。アーサーの返事は覚えていないけど、初めてあった日からもうどれだけたっただろう、俺はどんどん大きくなり、菊はどんどんきれいになる。
「アル」
「うん?」
「きれいですね」
「うん」
差し出された茶を一口飲むと、蜂蜜の甘さが口の中に広がった。
「あまーい!」
「おいしーい!」
「ちょっと癖のある味あるからな。調整したあるよ」
そしてベッドサイドのテーブルに月餅の山を積み上げる。
「本当は旧暦でやるから菊も月も見頃のはずあるが、今日は新月あるから、こちらの月を楽しむよろし」
「はい」
頷いて菊は一つ受け取った。二つに割ると栗の月が顔を出す。わあ、と菊の顔がきらきらする。
ああ、なんてきれいなんだろう。
「花もあるとよかったですね」
「!」
思いついて、身を乗り出す。
「菊って、山に咲いてるよね?」
「え…え。山にも、咲いてますね」
「それ、摘んできてあげる」
「え?今からですか?」
「ううん、それは間に合わないから、来年。来年、またこの日にお茶を飲もうよ。その時、フラワーシャワーやってあげる」
「フラワーシャワーって…花が降ってくるんですか?」
「うん。俺がぶわーって撒いてあげる」
「うわあ…綺麗でしょうねえ…。忘れないでくださいね」
「忘れないよ!約束する。来年も、再来年も、毎年ずーっとやってあげるからね!」
菊はまた、にこ、と笑った。