・フランシス→←ルートヴィッヒ ←フェリシアーノ、のフェリ視点。
・ぬるく歴史記述があります。1940年というか41年というか。
苦手な方はお戻り下さい。
「お前みたいになれたら、いいな」
そんな風にいう時、いつもは見せない顔で、ルートは少し笑う。
そしてそんな風に言われる時の俺は、大体ルートに飛びついているから、ムキムキに顔を押し当てて顔のこわばりを隠す。1、2。3まで数えたら、またいつもの顔に戻れている。
「なんでー?俺こそ隊長のように強くなりたいであります!」
えい、と上腕二頭筋を掴むと、ルートは笑いながら腕に力を込めて見せた。
「だったらもっと真面目に訓練を受けろ。本田がお前のサボりを誤魔化せなくて困ってたぞ」
敬礼は、してみせて、俺はへらりと笑う。正直、キツイツライを乗り越えてまで強くなりたいとは思わない。自分がなりたいのと憧れるのとは別だ。俺とは何もかもが違うからルートが好きだ。そしてルートの方も、多分、本当に俺のようになりたいとか、なれるとか、思ってない。
ただ、ルートはこの前見てしまったのだ。
俺が、何気なくフランシス兄ちゃんに「久しぶり−」と飛びついたのを。
お前なあ、と兄ちゃんは苦笑した。いつだって変わんないな、お前。
そういって兄ちゃんは俺の頭をわしゃわしゃ撫でた。
苦みのまじる声を聞くまで、俺は「いつだって」といわれるような状況であることを忘れていた。兄ちゃんの胸の中で一瞬目を見開き、俺はその時確かに、自分の頭上で兄ちゃんとルートの間で視線が交差したのを知った。
「フランス」は敵じゃない。なくなった。パリにはルートの兵がいる。
だけど、だからといって兄ちゃんとルートが握手したわけじゃない。彼は今でも「連合」だ。
兄ちゃんとルートの間には、ギルベルトから、いや、知らないけれどももっと前から続く因縁がある。
ルートは兄ちゃんの美しさにずっと憧れているけれども、兄ちゃんのようにはなれない。そして多分、兄ちゃんも、ルートの毅然とした強さに。
ずっとずっと、歴史に呪縛されたように憧れていて、だけれども、二人ともそれを口にできない。
気安く喧嘩もできないから、ただ視線を交わすだけだ。一瞬、だけど、強く。
「ねえルート」
背中に回した手に力を込める。
伸ばしても包み込めない。
抱きついてもつかまえられない。
それでも、精一杯手を伸ばす。
ねえルート。お前が誰を思っていても、俺はお前に手を伸ばすよ。お前が誰からも思われなくても、俺はお前を抱きしめるよ。
それが俺のできることだから。
「ねえ、ルート。きっと、誰とでも自然に手を握れる日が、来るよ」
ああ、今。
今、ルートは目を眇めて、見た。すぐ隣を、そして、遙か遠くを。俺はその視線を頭上に感じ、きゅっと目を閉じる。その俺の頭をくしゃりと撫でて、ルートは言った。
「お前が言うと、そんな気になる」
えへへ、と笑って顔を上げる。
かみさま、もし本当にいるのなら、戦争をしている俺たちを見捨てないでくれるなら、せめて、その未来の日にも俺に笑顔をください。