・ツイッターのお題診断。
・お題は「 ルートヴィッヒ×耀で教室にて裸エプロンプレイ
」、ですが、色々違います。独日。
・菊さんオタク設定。学ヘタっぽい。
苦手な方はお戻り下さい。
いつの間にか作業から逃げ出したフェリシアーノの帰りを待って、部室の鍵をもてあそびつつ本田と二人きり過ごす、という時間がたまにある。三人でいても話す割合と言えば2:2:6、フェリシアーノがいなければ必然的に会話量は減る。わざとらしく学校新聞の締め切りなど確認してみるが、お互いそうしたスケジュール管理は得意な方で、すぐに会話は終わる。そういえばオンリーの締め切りもその頃ですね、取材は前倒しでやっておきます、なんて、手帳用の小さなシャーペンを唇にあてて本田は言った。
「たぶん、新刊のネタをずっと考えてたからだと思うんですけどね…」
時間をもてあましたのだろう、菊はシャーペンを半回転させてとんとんと唇を叩く。
「どうした」
「変な夢を見ました」
「ほう」
「ルートさん、夢判断ってできます?」
「フロイトか?かじりはしたが、詳しくはないな。診断してもらいたいのか?」
「いえ――」
そうでは、ないですね、ええ。そんな風に菊は言って、手帳のホルダーにシャーペンをしまった。銀色の細いそれは軸受けが一瞬光った。
「まあ、言ってみろ。嫌じゃなければだが――」
嫌、では、ない。んですよね。今度はその手帳をぱたぱたと揺らし、顎に当てる。
決断力の弱さは菊の特徴だが、それにも慣れた。政治の局面ならやりづらさを感じるかもしれないが、今は完全なプライベートである。何より、言いたいような、言いたくないような、その言葉を考えるだけでCPUが飽和してしまいそうな、そんな言葉なら、俺の中にもある。わざとではないかと疑ってしまうほど頻繁なフェリシアーノの逃亡のせいで、その言葉が二人の空間をジェル状に密封する。息ができないような、逆に濃すぎる酸素に包まれているような、時間・空間。
「その夢の中で、私、王さんになってるんです」
「……ほう。変身願望なのか?」
「どうなんでしょうねえ。それで、ツインテにしてみたり、ハイポニにしてみたりして、目の前の人の関心を惹こうとしてたんです」
「お前が『モエ』とか叫んでたやつか」
共感はできないが、本田がそれで叫んでいたことは覚えている。私にとってあの人は萌えの象徴なんだと思うんですよね!!
実際、菊の描く女主人公はどこか王に似ている。それこそフロイトのようだから言いはしなかったが、そうか、と思った。男性向け同人誌の女主人公は、たとえ鬼畜陵辱ものだったとしても、結局は常に画面の中央に居座り、作者と読者の愛を一身に浴びる。菊は、王は誰からも愛される存在だと思っている。多分、古代、華夷秩序に組み込まれていた経験から。
ええまあ、と流して、菊は続けた。
「夢のことですから、あっという間にえろ妄想に突入してしまいましてね、教室だっていうのに、ズボンを脱いだり、スリットの切れ目を見せたり。この辺からもう誘惑大作戦になっちゃったんですが、裸エプロンとか、彼ジャケとか、もうほんと色々、さんざんやって――」
何の拷問だ、と考えて、違う違う、と頭を振る。そこにあったのは菊の姿ではないのだ。誰を誘惑しようとしたのか分からないが、少なくとも俺なら、あの海千山千の王に何をされても何の芝居だろうと思うだけだ。
「………全然、だめで。最強アイテムを装備してさえ、振り向いてもらえないんだなあ、って」
菊は持ったままだった手帳でこんと額を叩いた。
「……夢の話、だろう?」
「……ええ、もちろん」」
やはり拷問だ、と思う。
外見がどうあれ、菊が、誰かに迫った。裸エプロンだかなんだか知らないが、食ってくれと言わんばかりの姿で、――つまりは、自分を守らない、さらけ出した姿で。
精神分析などしなくても分かる。夢の中に現れた菊の無意識の中身が。
沈黙の末、いっそ酸素などなくなってしまえとばかりに、尋ねた。
「――――相手は誰なんだ?」
菊は一瞬あの真っ黒い目でじっと俺を見つめた後、手帳で軽く自分の頬を叩き、「秘密です」と笑った。