それはしかしお前の足指 |
※ご注意
殺気だつ者は時に美しい。 差し出した花束を一瞥し、すぐに菊は顎をあげた。 傷つく者も時に美しい。 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。むしろ、今こそ。「唯一」という地位を掴むチャンスだ。やつらとは違う。お前を損なおうなどとは思っていない。カトリシズムとは無縁であるこの手だけをとればいい。 かきくどく様を菊は冷淡に眺めていたが、やがて花束に手を伸ばし、一本だけを抜き出した。 「ならば」 「私に信じろと言うなら、貴方も証をたててください」 「私のために同胞を裏切ることができますか」 思わず苦笑した。同胞?アントーニョがか。やっとの思いで独立したというのに、それは愚問だった。奴を追い越し、「日の沈まない帝国」を経済から打ち崩すためにこそ、今ここにいるというのに。 「彼らは貴方を心の支えにしているはずです。もとより彼らは討ち死にを恐れていない。ぱらいそとやらへ至る最短手段ですからね。彼らが怖いのは、貴方がたという最後の希望さえ絶たれ、絶望と猜疑と飢えに心が歪められ、神を捨てることでしょう。・・・私を捨てるというなら、神にも自分にも捨てられて無間地獄へ落ちればいい」 菊は激しはしなかった。一本調子な声と同じく、突きつけられた花の茎も微動だにしなかった。 菊の言う「彼ら」は、「奇跡をおこす少年」を先頭にもう2ヶ月も菊に逆らい続けている。囲まれた孤城からはそれこそ「同じ神を信じる者として」ひそかに援助要請も届いている。
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島原・天草一揆における蘭船の攻撃の話。
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