※ご注意 
		  ・アル菊前提菊アルというか、アル菊@逆襲の菊というか。R15。 
		  ・今更ながら御本家「お誕生日おめでとう!」ネタ、今更すぎて被ってたらすみません。 
		  諸々、苦手な方はお戻り下さい。 
 	       
        
        
      「あ。」 
        ベッドサイドの引き出しに突っ込んだ手は、引き出しの軽さから感じた不穏な予感を証明しただけだった。空だ。そういえばこの前「ラストだった良かったセーフ!」と思ったんだった。 
        ちろ、と菊を見ると、真っ黒い目が半目になってじっと見ていた。だめ?とうかがうようにその目を見つめ返したけど、無情にも首を振られる。だめです、無いなら。たまらず、声に出す。 
        「ねぇ菊……分かるだろ?もうこんな状態なんだよ?」 
        手を導くと、従順なその手は、宥めるように”俺”を撫でた。 
        「ええ、よく分かります。お辛いですよね。…でも駄目です」 
        NOと言えるなんとか本を出した奴に言ってやりたい。こんなにもきっぱり菊はNOと言えるぞ。俺がどれだけ懇願しようと。こんなに菊のことで気持ちが一杯なのに。 
        「ええ、はち切れんばかりに思っていただけてそりゃあもう嬉しいですし、そのやるせなさは同じ性を持つ身として骨身に染みて分かりますが。でも是非ここは貴方のほうにも私の身になって頂きたいのです。夏にお腹下すとつらいでしょう?」 
        手で宥めあって終わりにしましょうか。そう言って菊は体を起こそうとした。それをとどめ、引き倒して後腔をまさぐる。既に柔らかくほぐされたそこは小さな刺激に反応してぴくりと震える。 
        「ねえ、菊」 
        意図せずに切なげな声になった。こういう声は出ると恥ずかしいけど、菊には効果的だ。 
        「な、んですか」 
        「君だって欲しいだろ?」 
        「…我慢できますよ、大人ですから」 
        そういうくせに、多分指でなぞられている花弁と同じくらいには菊の頬は赤らんでいる。 
        できるだけ声を落として囁くように菊の耳に声を吹き込む。 
        「君に入りたい」 
        ぴくん、と菊は震え、「もう…」と呟いてころんと身体の向きを変えた。ベッドの下に落ちたままの脱ぎ散らかしたスーツをごそごそと探り、取り出した小さな袋をぴっと歯で破いた。中から出現したとろりとしたものを俺に被せ、上目遣いに「一回だけ、ですよ」と菊は言った。 
      焦らされた上にやたらと刺激的な映像を見せられて、回線ショート状態のまま貪った、時には考えもしなかったが、やっと力を失ったそれから蛍光ピンクの袋をはぎ取り、小さく結んだところで気がついた。 
      気がついた瞬間、血が上った。 
      「菊!」 
      「…はい?」 
      けだるそうに横向きになっていた菊はとろんとした目をこちらに向ける。 
      「な、なんで君がゴム持ちあるいてるのさ!」 
      「は?今頃ですか?」 
      確かに「今頃」だ。その時には渇望していたものが与えられる喜びに目がくらんでそこまで考えもしなかった。 
      「だ、誰とやる気だったんだい!?」 
      「はあ?」 
      「や、やっぱり君も黒目黒髪の可愛い女の子が好きなんだな−!」 
      この世界の男女比率はものすごい偏りを見せていて、この広い南北アメリカに女の子はいないし(いまのところ)、「欧米」というくくりで見ても色んな意味で!性的対象にできない子しかいないのに、アジアには可愛い女の子が二人もいる(……いや、片方にはあまり近づきたくないんだけど。ついでに言うと、「連合の紅一点」だの「お花ちゃんズのかたわれ」だの。その辺りどうなってるんだと創造神に問い詰めたい)。 
      はあ、もちろん好きですけど、と言いながら菊はよっこらしょと起き上がった。 
      「さきほどの避妊具を、私が、避妊目的で使用する為に、スーツに入れていたのだとお思いなのですね?」 
      「それ以外になんの理由があってポケットなんかに入れておくのさ!」 
      大体、普通の人間は持ち歩かないだろう。今日こそはと気合いを入れたデート中の男とか(気合いが抜けたカップルはそれが備え付けのホテルか自宅を利用するものだ)、家庭外セックスをしたい男以外。 
      はー。菊はため息をついた。待ってよ、ため息つきたいのこっちだよ。 
      「誰!誰と浮気してるの!?」 
      つったって思いつくのはごく少数。二者択一に近い。 
      「私の口から言いたいことじゃないんで、気づいてくださいよ……」 
      「なにそれ!!その子をかばうってこと!?」 
      ずっと前菊の家で見ていた昼ドラってやつに、「きー!」とエプロンを噛む女性が出てきた。「今時そんな人いないよね」と薄く笑いながら見ていたんだけど、すごい気持ちが分かる。 
      確かに、ここで名前を出されたら経済封鎖くらいやってしまいそうなテンションだけど。だからってその台詞はないんじゃないか!?きー! 
      はああああ。 
      菊は深々とため息をついた。 
      「貴方、イヴァンさんからの誕生日プレゼント、お使いにならないでしょう?」 
      「は?……ああ、うん……箱のままそこにあるけど……」 
      菊は本当に嫌そうに言った。 
      「さっき、ストックがないと分かった時に、使おうとは思わなかったんですよね?」 
      「うん、だって」 
      サイズがさ。 
      あ。 
      ……あ。 
      「ぴ、ぴったりだった、ね、さっき……」 
      「誰の為の予備かくらい察してくださいよ……」 
      あーもう恥ずかしい。菊は膨れて横を向いた。 
      そういえば、匂いとか滑り用の薬剤とかがいつものと同じだった。てことは、菊は用意しててくれたんだろうか。どちらの家にもストックしてあるそれが切れたときとか、もしくは出かけた先でちょっと昂まっちゃった時とかのために。そのときに、「一回だけ、ですよ」なんて言いながら受け入れてあげるために。 
      ひああああ。すごい、照れる。 
      きくぅ!と抱きついたところで気がついた。 
      え、でも、「俺にぴったりだったこと」を「浮気をしていない理由」にするって、いう、のは。 
      菊は口の端だけをあげて笑った。 
      「その箱、お引き受けしましょうか?」 
      「え、あ。う、……うん………いや、だめ!!!」 
      何と声を掛けていいか分からず口ごもっているときに言われたものだから、思わず頷きそうになって、慌てて首を振る。 
      「あ、あげてもいいけど、浮気はだめ!」 
      「支離滅裂ですよ」 
      「ええと、ああと、………なんだったら毎回一緒につける?後始末が楽になるし……ほら、いつも肌ががぴがぴになってやだとか言うだろ?そしたら1ヶ月くらいで消費し」 
      ばふ。 
      いきなり顔に枕が飛んできた。そのまま柔らかい圧力で倒される。 
      マウントポジションをとった菊は、にっこりと笑った。 
      「というか、私がそれをつけて、貴方を気持ちよくして差し上げれば、イヴァンさんの志も報われてみんなハッピーなんじゃないかと思うんですけど」 
      「え」 
      「考えてみたら、私は貴方の快楽を知っているのに貴方は私のそれをご存じないなんて、不公平ですよね。ああ、本当に今まで気づかず申し訳ありません」 
      にこ、と菊は俺の頬を撫でる。 
      「…………裂ける痛みもお腹を下す苦しみも、苦楽を全て共にする間柄…!」 
      素敵でしょ、と菊は鼻先に口づけを落とした。 
      「うぇ、Wait!」 
      「なんでしょう」 
      「……冗談だよね?」 
      「何がでしょう。だって、考えてもみてください。針の穴に糸を通すのと、紐を通すの、どっちが簡単です?」 
      「いや、なんか話おかしいって!」 
      「大丈夫です、先ほど、私の愛の深さは分かって下さったでしょう。貴方につらい思いなどさせません……………最初は。」 
      また菊はにこぉ、と笑った。紙もすぱんと切れそうな笑みだった。 
      菊は、「最初は綿棒とか、眼鏡の弦とか、それくらいの細さ長さがいいですよね」と言って、すっと顔を近づけた。 
      囁き声が耳腔に吹きかけられる。 
      「快楽でずっぶずぶにしてやりますよ」 
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