SSSsongs12(アル+アサ+菊)
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※ご注意
「「「うーーーーーーん」」」 3分経ってもうなり声のユニゾンしかあがらない。三人は顔を見合わせ、同時に口を開いた。 「「「休憩!」」」 ブレインストーミングと言っても、皆目アイディアのでてこない難問というのはあるのだ。 「私、緑茶入れますけど」 踵を返してポットに向かいつつ、ありえない、と首を振る菊の後ろでアーサーは、どうして菊はミルク・砂糖入りグリーンティーをあんなに毛嫌いするんだろうと小首を傾げ、しかし疑問は封じた。行動様式や生活習慣(それはしばしば「菊の」ではなく「日本人の」という修飾がつく)の何を批判されても「ははは…」で受け流す菊が、断固として譲らないのは、食べ物飲み物のことと研究のことだけだ。 ばたばたと大きな音を立ててアルフレッドが戻ってくる。 「あ、何お前、アイスクリームまでとってきたのか」 しばし、それぞれの好物を味わう。目を閉じて、それでも目の前に浮かぶのは。 「「「…わっかんない」なー」ですねえ」 同時に言葉に出してしまい、顔を見合わせて笑う。 「休憩って言ってるんですから」 正体不明の巨大天体、ライマンアルファ・ブローブ。 「「「なんなんだろ−」」でしょうねえ」 ホワイトボードに貼り付けたスペクトルと合成写真。青白く光るこの巨大天体はその色にも神秘性が表れている。 現在考えられている宇宙創生の理論では、小天体の衝突合体によって天体は成長、つまり銀河形成が行われてきたとなっている。であれば、こんな大きな天体がこんな初期に生まれるはずがない。たとえて言うなら、20年で大人になるとして、まだ1歳ちょっとなのに大人の体格をした子どもが発見されたようなものなのだ。 「他に似たような天体はないんだもんな。唯一例外、特例中の特例だ」 アルフレッドはきょとん、とした眼をして、朗らかに言った。 「その方が楽しいじゃないか!」 「うん、まあ」 「「…おーい」」 「あの、さ、本当に、こども扱いなんてしてないんだぞ?」 (「アーサー、それ墓穴」「いや、お前がだろっ」) 「………………次のすばる観測申請は私一人の名前で出しましょうかねえ」 菊は二杯目のお茶を注いでゆっくりと干した。 「GHQのマッカーサー司令官が、戦後直後の日本のことを『12歳の子ども』と評した話を思い出しました」 アルフレッドは大きく肩をすくめた。 「何言ってるんだよ君たち、ヒミコの時代に比べればちっちゃな違いじゃないか!」 飛鳥時代、に頭が飛んでいたせいで一瞬菊はきょとんとし、それから破顔した。 「「…確かに!」」 三人は同時に青白く光るその天体を振り仰いだ。129億光年彼方に発見された5万5千光年の天体は、くじら座・すばるXMMニュートンディープフィールドに見つかったこととその神秘性から、ヒミコと名付けられている。
新しい時代のコペルニクスよ 余りに重苦しい重力の法則から この銀河系統を解き放て (宮沢賢治)
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余談(↑に入らなかった) 「でもさあ…実際、菊ってかわいい癖あるよね」 「「ラッコ座標系ってそんな萌えるか?」」 (惑星イトカワ上の位置は「ラッコの頭の辺り」などと表されます。萌えませんか。 |