SSSsongs1(アル菊

 

「へえ…」
きっと、普通に押しかけられて食事を作ってあげているうちは気づかなかったことだろう。
「どうしたんだい?」
アルフレッドは頭に乗せた三角帽子を揺らして首を傾げた。菊は小さく背伸びをして、ゴム紐で頭に支えられたそれをちょんと直してあげる。
「野菜全般がお嫌いなのかと思っていたんですけど」
「そう?生野菜は結構食べるんだぞ」
しゃくしゃく。
うさぎのようだ、と菊は微笑む。
アルフレッドが開いた新年パーティは持ち寄り立食形式で、世界各国の美味しい料理が揃い、食い道楽の菊は頬がゆるみっぱなしだ。もちろん、中には口に合わないものも、最初からテロとしか思えないようなものもあるけれども、心頭滅却して全てを笑顔で頂いた。クロテッドクリームやメイプルシロップの偉大さを改めて感じつつ。
菊はお節三段重でも用意しようかと腕をまくったが、現代若者にさえ敬遠されつつあるシブい料理は欧米の方に喜ばれないかもしれないと、栗金団と伊達巻き、あとは仕出し料理にとどめた。自分のためにと酢の物を用意して、余ったものをスティックサラダと称して味噌マヨネーズをディップに添えて出していたのだが。
アルフレッドはそれをグラスごと独占して、しゃくしゃくとセロリを食べている。
「セロリって、野菜の中でもかなり難度の高い部類かと思ってました」
「あー、うん、癖はあるね。でも、音が楽しい」
そしてわざと音が響くように口を開けてしゃくしゃくと噛む。
不覚。
と菊は思った。
可愛いなんて思ってしまった。
この身長差がなかったらぎゅっと腕の中に抱き込んで頭をぐりぐり撫でてやりたい。

ディップが無くなった、とテーブルに戻ったアルフレッドと入れ違いに、フランシスが肩をぶつけてくる。
「何真っ赤になってんの、菊ちゃん」
「なんでもないですよ。それにしても流石フランシスさんのご用意されたものは美味しゅうございました。感服の至りです」
「すんごい強引な話題転換だねぇ。そんなに認めたくない?」
「何をでしょう、料理の腕のことでしたらフランシスさんの優位は認めておりますとも」
「よっぽど悔しいんだ、あんなお子様を好きだってことが?」
「申し訳ありません、あいにく田舎者で欧州の方の操られるえすぷりにはとんと疎く」
「かーわいーの。ねえ、お子様なのが嫌なんだったらお兄さんの胸はいつでも開いてるよーん」
菊は照れを誤魔化すようにシャンパンをこくりと飲んで、軽く横目で睨んだ。
「貴方を嫌う理由も欲しいです」
「おお、大人なふり方」
フランシスは肩をすくめ、くしゃっと菊の頭を撫でて去っていった。

向こうでアルフレッドが「この栗美味しい!」と大きく手を振っている。

ああ、この人を愛することを、国民の皆様に納得していただけるような理由がないものでしょうか。

 

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず(佐佐木幸綱)



私には、要らないのですけど。

<<BACK

<<LIST