王耀・'30
|
※ご注意※ [シリーズ共通]
[本作] 以上ご了解の上お読みいただけるならスクロールをお願いします。
・・・・・・・・・・5 2 1・・・・・・・・・・南京より東京へ打電 お前を知っている。 そういうと、幼子に不似合いな感情の映らない黒い瞳が笑んだように細められた。紅葉のような手がゆっくりと耀の太腿に伸ばされる。すり寄せられる頬。耀が手を落とせば、ちょうど黒髪の上に乗る。 知っている。 今度は違う意味で耀は思った。 菊。我喜愛的弟弟。他已経変化。 そう思った耀を、幼い菊の姿(なり)をした「それ」は見上げて、笑った。 ・・・・・・・・・・5 2 1・・・・・・・・・・南京より東京へ打電 遙か昔、ヨンスが菊に仏像をやったとき、末弟は「きらきらしている」と言ったという。その素朴なものいいに兄二人は苦笑のふりで頬をゆるめたものだった。 だけど、そう、耀も金色には弱い。赤も好きだが、きらりと光を受けて光る金には思考力を奪われる。 もう何千年も、耀は中華世界の中心として君臨してきた。泰西ではローマ世界という”とけ合い”が崩れ、「国」は自らの輪郭をかたどることにやっきになっている。そんな世界観を東亜に持ち込ませるわけにはいかない。私はお前達と同格の「nation」などではないのだ。 そう思ったのに、結局手への接吻を許すことになった。跪いた彼は耀の手を取り、儀礼的に口づけたあと、その手をきゅっと握って、こちらを見上げた。翡翠の目に捕食者の影が走る。ああ、もうとらわれているのだと耀は悟った。 「それ」に会ったのはその少し後だ。 泥沼の体を示す上司達の腐敗と乱脈とにこめかみを押さえつつ寝所に戻った耀は、ばたん、と寝台に倒れ込んだ。結んでいた髪をほどき、乱雑に脇机に紐を投げる。 長く生きすぎた、ああもう 「………疲れたある」 言わないよう自制しているその言葉をもらしてしまった耀は、起き上がって周りを見渡した。聞かれてはいけない、こんな言葉は。「人」には、絶対。 そう焦る耀の目に、あの、きらきらの髪が映った。 「お前……」 「それ」は微笑んだ。翡翠の目が細められる。その上のまつ毛も、その上の並より太い眉毛も、なんて綺麗な金色だろうと、近づいてくるそれを見ながら耀は思った。 この髪を。 引っこ抜かなければならないのだと思いながら、耀はその光の反射に溺れた。 ・・・・・・・・・・5 2 1・・・・・・・・・・南京より東京へ打電 いくら家族だ一体だと言い張っても、違う個体なのだから当然差は出てしまう。あれだけ近くにいて常に手綱を引いていたヨンスでさえ、自分だけの文字を作った。まして海を挟んだ菊は。 ・・・・・・・・・・うー ある いー・・・・・・・・・・南京より東京へ打電 お前を、知っている。 知っているとも、お前は菊じゃない。分かっているのに、アーサーの形代(かたしろ)にもできなかったように、やはり耀は、「それ」の髪を掴んで引きはがすことができない。 菊との睨み合いに荒む心を、この幼子のなりをした「それ」は、今確かに慰めている。握りしめた拳をほどかせ、日向ぼっこのような午睡に誘う。 だけど、慰められてはいけないのだと、耀は分かっている。引きはがすのだ。それこそが菊への愛だ。 「それ」は可愛らしい花から生まれ、摘み取った人の姿をしてやってくる。 だが菊、我は「それ」の見せる甘い夢はもう要らない。 大英帝国にはただの市場と見なされていたことも、尊敬のまなざしを末弟が捨てたことも。 だから、これは冒された脳で打っているのではない。 来るがいい、ここまで。 5億の力であばらが折れるほど抱きしめてやる。 それこそが、お前への。 ・・・・・・・・・・うぉー あい にー・・・・・・・・・・重慶より東京へ打電
|
|